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医師転職ドットコム医師のキャリアをとりまく環境・未来 > 医師と医療経済 第8回

医師のキャリアをとりまく環境・未来

真野医師

真野 俊樹

1987年名古屋大学医学部卒業。医師、医学博士、経済学博士、日本内科学会専門医、MBA。臨床医を経て、95年9月コーネル大学医学部研究員。外資系製薬企業、国内製薬企業のマネジメントに携わる。その後、昭和大学医学部(病院管理学担当)専任講師を経て、現在、多摩大学医療リスクマネジメントセンター教授。

医師と医療経済 第8回

経済学の目的

さて、前回理系と文系は違うという話をしました。今回は経済学について、医療との関連で考えてみましょう。以下は私の医療経済入門書である「入門医療経済学」(中公新書)からの改変です。

経済学は、経済学は経世済民の学問であり、「希少な資源をある目的のためにどのように配分されるべきか追及する」学問であるともいわれます。しかし一方では「経済という人間の営みを対象にした学問」でもあります。また医療も人間を対象にしていることは言うまでもありません。

キーワードは「人間」と「学問」のふたつです。つまり、医療経済学では、「人間」を対象にする医療という行為(あるいはその1部)を経済行為とみなし、それを学問として分析していこうという立場のものなのです。

「医療」に対峙して「医学」というものがあります。これは、言葉に「学」がついていることから明らかなように、学問なのです。しかし、医療経済学では医療を学問としてみているわけではない、ところに注意を要します。

ややこしいことに、医療の世界でも「医学」や「看護学」「薬学」といった学問としての体系で、医師や看護師、薬剤師をはじめとするコメディカルは勉強をしているのです。これらは当然、医療という行為の基礎になります。なお、ここでは看護や調剤といった医師以外の専門職が行う行為も便宜上、医療の中に含めました。

なぜなら、人間を直接に扱う医療や看護という行為には、当然のことながら正当性が無ければならないし、その裏付けは科学性ということになるからです。ところで、医学、看護学など(以降医学として一括して語る)の分野での科学性ははっきりしています。すなわち、「万有引力の法則」といった「ニュートン物理学」をベースにした理科系の学問としての医学です。そこでは、真理の追究や因果関係が明確な実験系の科学が主流になっているのです。

たとえば、私たち医師は医学博士号という学問の資格を取得することがほとんどです。

さて、どんな研究に基づいて、この医学博士号は取得されるのでしょうか。

ここで、前回に続いてふたたび、医学博士およびその取得の話をしましょう。旧来私の書籍でも類書でも、この医学博士号取得の話は、大学医学部の「医局」との関連で語られることが多かったと思います。すなわち、医学部教授が医師に博士号を与える権利や、人事を握っていることが問題であるという話し、まさに「白い巨塔」の世界です。

医学研究の方法論

医学が純粋な科学を志向している以上、医学博士を取得するための医学論文にはきわめて高い客観性、たとえば、同じ結果が何回でも繰り返し得られるという「再現性」といった理科系の学問で必須の要件を満たしていなければならないでしょう。であるとすれば、行いうるもっとも適した方法論は、実験、それも動物や細胞を使った実験になります。これらには複雑な意思がないので、与えた刺激や介入に対しての反応が明確です。これは、文科系的に言えば、多くの因子を除去し、抽象化したモデルの検証をするための実験、を行っていることになります。

私事ですが、私の医学博士号の取得論文は、「Changes of calmodulin concentration and cyclic 3’,5’- nucleotide phosphodiesterase activities in cardiac muscle of hyper- and hypothyroid rats. J. Endocrinol.1994 ,143:515-20.」と「Effects of thyroid hormone on coenzyme Q and other free radical scavengers in rat heart muscle. J. Endocrinol. 1995 145:131-6」です。詳細は省略しますが、後者は、最近健康食品にもなっているので、比較的耳にされるかもしれない、「コエンザイムQ」についての論文です。いずれにせよきわめて専門性が高い。博士号の資格要件は、この論文が掲載されたイギリスの雑誌、「J. Endocrinol.」(正式名称は、「Journal of Endocrinology」、日本語では内分泌学雑誌とでもいうのであろうか)の権威が重要になるのです。

残念ながら、この雑誌はさほどすごい雑誌ではなく、そこそこのランクの雑誌ですが、差読者といって、著者とまったく関係がないいわば専門的検閲者が内容について評価をしている雑誌であることが、最低限、医学博士号取得論文たる要件になります。

いずれにせよ、この論文はその題名中に「rat」すなわち、ねずみという言葉があることからもわかるように、人間を対象にした研究ではないです。臨床系であっても多くの医師の研究対象は、上述したように客観性が担保され、かつグローバルに再現性がある、動物や細胞、遺伝子といったものになりがちなのです。

実は、ここは方法論的に大きな分かれ目になります。

なお、医学には社会医学といって、実際の社会のなかでの医学を考える学問があります。この代表には、公衆衛生学や予防医学といった学問で、主に疫学(人間集団を対象として、病気の原因や本態を究明する医学の一分野。伝染病の原因や動向を調べる学問であったが、今日では、公害など広く健康を損ねる原因などを研究対象とする)の手法を使うものがあります。

しかし、日本の医学は(実は、日本に限らないのだが)、患者を診断し、治療するいわゆる臨床医学が中心であり、社会医学は少なくとも大学医学部の主流ではないでしょう。

さて、話しをもどすがこの医学研究の方法論は、経済学で言えば、主流の考え方である方法論的個人主義の徹底ともいえます。方法論的個人主義については次回に詳述します。

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