医師が勤務先の病院を選ぶ場合に、必ず目に入るのが開設者情報です。市立、県立、医療法人立など、病院には様々な開設者の種類がありますが、それらは実際に勤務する際にどのような違いとして表れるのでしょうか?
以下では、特に公立病院の医師の年収に着目して、民間病院とどういう事情でどのように違うのかを比較していきます。
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公立病院および民間病院に対して医師が抱くイメージ
まず、公立病院、民間病院に対して医師はそれぞれどのような認識・イメージを抱いているのでしょうか。ツイッター上での医師のツイートからいくつか例を取り上げてみます。
大学病院とか地域の中核病院、公立病院ばかり回った医師は低い給与しか知らないし、民間の中小病院ばかり回っていると高い給与しか知らなかったりする。
なので、医師の給与が高いか低いかは、「働き方による」でFAなのだ。
— ながし (@Pnagashi) 2015年12月1日
公立病院で規定時間内の外勤に出ると、出た時間分の超勤代が削られるのだが、どうも納得がいかないのは私だけでしょうか?#超勤 #医者のバイト
— トラトラ兄さん (@anesth_tora) 2017年8月12日
今は半分公立病院のようなところにいるから、常勤だと基本的に他で仕事ができない。ので、週4日の非常勤として勤務しているが、こういうのってやっぱり長く続けるもんでもないんだろうか。上級医からは早く常勤になった方がいいとよく言われるので気になっている。
— simn (@psychohoolic) 2017年5月3日
某国立医療センターは
診療時間外は患者の主治医が不在のため
近くの大学病院救急外来に行くようになっていた給料が安くても無理な診療を強要されない国公立か、
高いけど事務レベルに保険点数の問題で診療に口出しされる
乱診乱療の民間病院医師の就職先としては永遠のテーマですね
— 健一郎 (@kenitirouchiba7) 2017年8月11日
うちは私立病院だから、利益を上げなきゃ病院は潰れるのは事実。かといって、必要もないのにベット埋めるため入院させたり、オペ勧めたりすることはしないよ。保険外診療も一切してない。
事務長にチクチク言われても知らない顔してる。— 七子 (@nanapyon615) 2017年7月17日
これらのツイートから、公立病院、民間病院それぞれに関して以下のような認識があることが読み取れます。
-
<公立病院>
- 年収が低く、時間外手当などの恩恵も少ない。
- 外勤(アルバイト)ができない、しづらい。
-
<民間病院>
- 年収が高い。
- 利益を上げるように事務職員から介入を受ける。
公立病院の年収は民間病院と比較して実際どうなのか?
それでは公立病院の年収は民間病院と比較して実際のところどうなっているのでしょうか?厚生労働省の「第20回医療経済実態調査」によると、2014年度の医師の平均年収は公立病院で1,494万円、民間病院(医療法人)で1,544万円となっており、50万円ほど民間病院の方が年収が高いという結果となりました※1。
開設者別の平均年収額の一覧は以下のようになっています。
公立病院が民間病院より年収が低い理由
なぜ公立病院は民間病院より年収が低い傾向にあるのでしょうか?厚生労働省「平成27年度 病院経営管理指標」を参照すると、公立病院では以下の3つの事情があると考えられます。
①赤字病院の比率が高い
医業収益における黒字病院比率を開設者別に比較すると、医療法人立の民間病院で64.8%が黒字であるのに対して、自治体立の公立病院では12.1%しか黒字の病院がないという状況となっています※2。つまり、公立病院では実態として大半の病院が赤字という現状となっています。
これには、非採算領域での診療を行うなど仕方のない事情もあります。しかし、赤字分を負担する自治体からの厳しい目線があるため、医師の給与を引き上げにくい環境になってしまっているということが考えられます。
②(一見して)人件費が高い
一般病院での民間病院(医療法人立)と公立病院(自治体立)の人件費比率を比較すると、民間病院で53.3%に対し、公立病院で63.1%と高くなっています※3。
ただし、この指標を比較する上では注意が必要です。人件費比率 = 人件費 ÷ 医業収益 であるため、人件費比率が高いということは、「人件費が多い」のか、「医業収益が少ない」のか、2通りの可能性を考える必要があります。
そこで、民間病院と公立病院で全体の費用(固定費・材料費・人件費・委託費・設備関係費・経費)のうち、人件費の占める割合について調べると、以下のような結果となりました。
全体の費用に占める人件費の割合は、民間病院が34%に対して公立病院が33%と、むしろ公立病院の方が割合が低いことがわかります。この結果から、公立病院の全体の費用の中で人件費は特に高いわけではなく、医業収益が低いために高く見えてしまっていると考えられます。
しかし、人件費比率が「一見して」高いということによって、自治体として「他職種と比べ高給である」医師の人件費を抑制する方向に舵を切ることに繋がっている可能性があります。
③医師1人あたりの収益が少ない
公立病院が民間病院に比べて、医師1人あたりの収益が少ない傾向にあります。医師1人あたりの外来・入院患者数と診療単価をかけあわせると、民間病院では医師1人1日あたり395,493円の収益を上げているのに対して、公立病院では330,942円の収益となっています※4。
この収益の違いは、主に医師1人が対応する患者数の違いによるもので、入院で民間病院5.5人に対し公立病院4.6人、外来で11.2人に対して8.3人と、公立病院での対応患者数が少なくなっています。
医師1人あたりの収益が少なければ、医師へ支払うことのできる給与も少なくなることは予想に難くありません。
公立病院で民間病院より年収が低くなるのには、以上のような3つの事情が挙げられます。また、公立病院で公務員扱いとなる場合、外勤が制限されるということも年収が低いと感じる要因になるといえます。
最後に
ここまで公立病院と民間病院の年収の違いについて見てきましたが、あくまで一般的な傾向であることを付け加えておきます。公立病院でも待遇改善に取り組んでいて給与が高い病院もあれば、民間病院でもあまり給与が高くない病院もあります。これは、地域事情や経営者の方針によっても異なってきます。
今後、勤務先の病院を選ぶ際には、以上のような一般的な傾向を踏まえつつ、院長の考え方や経営方針などの違いにも着目して多面的に情報収集してみてはいかがでしょうか。
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<注>
※1 一般病院(ここでは一般病床・療養病床からなる病院の総称)での比較。年収は平均給料年(度)額と賞与を合わせた金額を利用している。表記上、千円単位で四捨五入した。
※2 厚生労働省「平成27年度 病院経営管理指標 別冊」217-218ページ。経常利益でなく医業利益を用いるのは、自治体病院では一般会計からの繰入金が医業外収益に含まれ、経常利益で実態よりも利益率が高く出ている傾向にあるため。
※3 同、5ページ。ここでの一般病院は、一般病床8割以上の病院を指す。
※4 同、5ページ。医師1人あたり入院・外来患者数と、患者1人1日あたり入院・外来収益を医療法人立と自治体立の一般病院で比較した。