再延期の可能性は?新専門医制度に関する最新動向<専門医制度と医師の転職事情①>

どうなる?専門医制度

 

2017年4月から開始を予定されていて1年延期となっている新専門医制度に関してですが、今年に入ってからも追加の要望や反対署名運動などもあり、2017年5月18日現在でも今後どうなるのかはっきりしない状況となっています。

直近では、5月12日(金)に日本専門医機構が理事会およびその後の記者会見を行ない、専門医制度新整備指針での今後の対応と総合診療専門医について説明を行ないました。

その中で、専門医制度新整備指針については、4月24日に厚生労働省が開催した「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」(以下「医師養成の在り方検討会」)での指摘への対応として、以下の4点を指針の中に明示していく方針としています※1

  • ・専門医資格の取得は医師にとっての義務ではないこと
  • ・地域医療や女性医師に配慮してカリキュラム制を設置すること
  • ・研修の中心には、大学病院以外にも症例豊富な地域の中核病院も含むこと
  • 都道府県協議会を随時開催して運用状況を報告すること

しかし、3月17日の同機構の記者会見では、5月には研修プログラムの募集を始め、8月からは専攻医を募集できるようにする予定である旨を発表しており※2、専門医制度新整備指針の見直しが入る中で、当初のスケジュール通りに進められるかどうかは不透明な状況となっています。

専門医制度は、医師の転職にも影響の大きいテーマであるため、今後、医師転職研究所では数回に分けて取り上げていきます。今回は、専門医制度に関するこれまでの経緯や最新の動向について整理していきます。

新専門医制度に関するこれまでの経緯

これまでの経緯に関しては、「医師養成の在り方検討会」の資料として提出された『専門医に関する経緯と最近の動向について』(平成29年4月24日)に概要がまとまっているため、最初にそれに基づいて4つの点について整理していきます。

 

新たな専門医制度が求められるようになった背景と改定の目的

まず、新専門医制度が必要とされた背景についてですが、旧来の専門医制度に対しては以下の3つの問題が指摘されています(同資料、3ページ)。

  • ・各学会が独自の方針で専門医制度を運用していて認定基準が統一されていないため、専門医の質が担保されていない(専門医の質の問題)。
  • ・専門医の正しいイメージが国民に浸透しておらず、現行の専門医制度が国民にとって分かりにくくなってしまっている(求められる専門医像の問題)。
  • ・医師の地域偏在・診療科偏在が近年の医療を巡る重要な課題となっている(地域医療提供の問題)。

これらの問題を背景として、「医師の質の一層の向上及び医師の偏在是正を図ること」を目的に新たな専門医制度の検討が始まりました(同、4ページ)。

 

専門医制度改定に向けたこれまでの経緯(時系列)

新専門医制度の実施に向けたこれまでの検討の経緯を時系列に並べると、以下のようになっています(同、8ページ)。

<2017年度からの新専門医制度策定に向けた動き>

  • ・2013年4月:『専門医の在り方に関する検討会報告書』取りまとめ
  • ・2014年5月:一般社団法人日本専門医機構設立
  •       ⇒ 2017年度からの開始に向け準備を進める。

 
<新専門医制度への懸念の表明から開始時期の延期決定まで>

  • ・2016年2月:
  •      17日 日本医師会横倉義武会長より懸念表明※3
  •      18日 社会保障審議会医療部会で委員より懸念の表明※4
  • ・2016年6月:
  •      7日 日本医師会・四病院団体協議会合同緊急記者会見にて懸念表明
  •      7日 厚生労働大臣談話(関係者の意見を受け止めることを期待)
  •      27日 日本専門医機構で社員総会を実施し新理事を選出
  • ・2016年7月:
  •      20日 日本専門医機構で新たな検討会を開催
  •      25日 日本専門医機構の社員総会で、1年間の延期を正式決定

 
<2018年度からの開始に向けた再検討>

  • ・2016年11月:
  •      18日 日本医師会横倉会長より要望を提出
  • ・2016年12月:
  •      16日 日本専門医機構の社員総会で専門医制度新整備指針を決定
  • ・2017年3月:
  •      17日 新専門医制度新整備指針の運用細則を理事会で承認
  •      21日 新整備指針の運用細則及び補足説明について意見募集
  • ・2017年4月:
  •      4日 新整備指針の運用細則及び補足説明について意見募集締め切り
  •      12日 全国市長会より新専門医制度に関する緊急要望を提出
  •      24日 厚生労働省「医師養成の在り方検討会」開催

 

日本医師会からの要望(2016年11月18日)

2016年11月18日付での日本医師会横倉会長からの要望は以下の7点となっています(同、9ページ)。

  • ・基幹施設の基準は、原則各都道府県で大学病院以外でも認定される基準とすること
  • ・これまでの専門医研修施設が専攻医の受け入れを希望する場合は連携施設となれること
  • ・専攻医のローテートは、原則として6ヶ月未満で所属が変わらないこと
  • ・都市部の都府県に基幹施設があるプログラムに募集定員を設けること(過去3年間の専攻医の採用実績の平均を超えないこと)
  • ・専攻医の採用は基幹施設だけでなく連携施設でも行えること
  • ・プログラムの認定に当たっては、各都道府県協議会において地域医療関係者の了解を得ること
  • ・研修期間は、妊娠・出産・育児等の理由により中断でき、6ヶ月までの中断であれば研修を延長しないですむこと。6ヶ月以上の中断期間があった場合でも中断前の研修実績は有効とすること。

これらの要望に関しては、2017年4月24日現在ではおおむね対応されている状況となっています(同、10ページ)。

 

全国市長会からの要望(2017年4月12日)

全国市長会の松浦正人会長代理が塩崎厚生労働大臣宛てに提出した『国民不在の新専門医制度を危惧し、拙速に進めることに反対する緊急要望』※5では、「地域医療の実態を軽視した新専門医制度の議論が先行しており、このままでは国民医療の推進に大きな支障を来す恐れ」があるという強い懸念を示しており、以下の6点を留意することを要望しています(同、12ページ)。

  • ・すべての医師を機構の認定する専門医へ振り分けることで、多くの専門科を整備できない中・小規模病院が敬遠される懸念
  • ・地域医療を支える中・小規模病院が研修指定の認定を受けることは現実的に困難で、大学病院や大病院の所在地以外の地域での医師不足が助長される懸念
  • ・すべての新人医師に専門医取得を義務付けされることで第一線の医師としての診療開始年齢が遅延され、また専門的な検査や診療があらゆる疾患になされることで医療費が増大する懸念
  • ・2年間の初期研修を修了した医師は制度的に総合診療が出来るべきで、上書きの専門医教育の義務化より、初期研修も含めた医学教育を根本的に見直すべきこと
  • 若手医師たちに義務的に医局生活を強いることで、地域医療を担う医師の基幹施設への引き上げにより地域医療に支障が生じる懸念と、社会的な制約や経済的条件により大学病院に馴染まず、フリーの立場で地域医療に貢献している医師の権利・自由を奪う懸念
  • ・地域医療を担う自治体の長や、国・地方議員による検証を度外視して専門職自律という国民不在の議論を進めてしまっていること

これらの全国市長会の要望を受けて開催されたのが、4月24日の「医師養成の在り方検討会」であり、その中で日本専門医機構の吉村理事長は、以下の3点を明確にする考えを表明しました※6

  • ・専門医取得は医師の義務ではないこと
  • ・地域医療に従事する医師が専門医を取得しやすいようカリキュラム制を設置すること
  • ・研修の中心は大学病院だけでなく、症例の豊富な地域の中核病院なども含まれること

冒頭にお伝えしましたが、日本専門医機構は5月12日の会見で改めてこの考えを専門医制度新整備指針に反映させることを発表しています。

新専門医制度の2018年度の開始に反対する署名活動

新専門医制度に関する厚生労働省および日本専門医機構を中心とした経緯は以上のようになっていますが、地域医療を担う医療機関や、一般の医師を含めた動きは他にも出てきています。その一つとして、新専門医制度の2018年開始に反対する署名運動があり、1,000人を超えて比較的大きな動きになってきているためここで紹介します。

この署名活動は、Change.orgというインターネット上で署名を募るサイトで『「新専門医制度」、平成30年度からの開始に反対します!』という名称のキャンペーンとして実施されています(キャンペーンサイト参照)。

2017年3月9日に開始されており、2017年5月18日現在、1,532人の賛同者を集めています。呼びかけ人としては13人の名前が並び、代表は安藤哲郎(安城厚生病院副院長)となっています(「尚、この意見は、呼びかけ人の所属組織の意向を反映するものではありません」という但し書きがあることをここに付言しておきます)。

この署名活動は最終的には塩崎恭久厚生労働大臣に提出される予定のものとして開始されました。進捗として、1,000人が集まった時点(2017年3月15日)で、日本専門医機構の吉村理事長に要望書として既に送られているようです。

この活動の中で指摘されている問題点は以下の8点となっています(原文より引用)。

  • 1.国民全体のために、どのような専門医がどのくらいの人数必要か、また、その質をどのように確保するかが十分検討されていません。
  • 2.なぜ 19 領域が基本領域であるのか、また基本領域とサブスペシャリティとの関係について十分整理されておらず、医療界の合意もありません。
  • 3.プログラム制を基本としているため、働き方に柔軟性がなく、女性医師のキャリア形成への配慮がありません。今後、医学部卒業生の3割以上が女性であり、女性医師を活かす制度としなければ、日本の医療は衰退します。
  • 4.医師偏在対策として、基幹施設―連携施設のローテートが考えられています。しかし、専攻医の短期間ローテートは医師偏在対策としてほとんど実効性がなく、むしろ研修の妨げとなり、優秀な医師が育たず、地域医療は衰退します。
  • 5.新専門医制度は、多くの大学医局が復権のチャンスと考えて活動していると推測されます。しかし、大学医局は「医局外の」地域医療を視野に入れていません。地域医療を支えてきた病院が医局との関連が薄い場合、本制度開始後には危機的状況に陥る危険性があります。
  • 6.短期のローテートの繰り返しは、いわゆる「お客様状態」での研修にすぎず、専門医としてのトレーニングが不足します。また、医療安全の観点からもリスクが増加します。
  • 7.専攻医の身分保障や経済面への配慮がないため、研修に専念できません。
  • 8.専門医制度が各医学会からの学術面の協力を得ながら利益相反を回避し、かつ、専門医の質を担保するにはどうすべきかの議論が不十分です。また専門医機構の在り方についても広く医療界、そして国民の合意を得る必要があります。

これらの問題のうちいくつかの点は既に指摘として出ていましたが、例えば「専攻医の身分保障や経済面の配慮」などの問題はあまり触れられていません。

この署名活動が今後どうなるのかは不明ですが、専門医制度のこれからの動きに影響を与える可能性もありますので、今のうちから注目しておくべき活動といえます。

再び延期される可能性は?新専門医制度に関する最新の動き

新専門医制度に関する議論は現在も進行中の問題であり、5月17日にも、医学部長会議で全国市長会の「論文発表のために医局生活を強いられるとする」見解に対して反論する※7など、収まりを見せていません。

「専門医制度」に関してYahoo!のリアルタイム検索を行なうと、専門医に関する様々な発言が確認できます※8。その中には、専門医制度がまた延期するのではないか危惧する声も見受けられます。

 


 

しかし、日本専門医機構では現状のところ延期の可能性には触れておらず、2018年度開始の姿勢を崩していません。この状況を踏まえて、新専門医制度が延期される場合とされない場合の両方の可能性を視野に入れる学会も出てきています。例えば日本外科学会では、専門研修プログラム募集に際し、以下のような記載をしています。

 現在、日本専門医機構では平成30(2018)年4月からの新制度による研修開始を目指し、鋭意作業が進められており、本会もより良い専門医制度の構築に向けて、可能な限りの協力を行っております。
 ただし、昨今の報道などにもありますとおり、厚生労働省においては専門医の養成について検討するための委員会(「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」)が改めて設置されるなど、今後の動向についてはいまだ不透明な点もございます。
 全領域が平成30(2018)年4月から一斉に新制度による専門医研修を開始することを目指し、外科領域といたしましては、引き続き協力を行う方針でありますが、仮に平成30(2018)年4月からの新制度による研修開始が困難となった場合についても、引き続き現行の外科専門医制度に研修プログラム制を採り入れて、有効に利活用したいと考えております。

 
この記載に見られるように、日本外科学会でも今後新専門医制度がどうなるのかについては不透明というのが現状の認識となっています。

これまで新専門医制度の経緯と最新事情について振り返りましたが、今後専門医制度が再び延期されるのかどうかは未だはっきりしていない状況となっています。2016年に延期された時の流れでは、6月頃に延期の可能性が濃厚となってから7月に確定となっています。今年も同様の経緯を辿ることになるのか、それともこのまま2018年度から開始となるのか、今後特に注視していく必要があると考えられます。

 
参考資料
※1 メディ・ウォッチ掲載記事, 2017年5月15日
※2 日経メディカル記事、2017年3月22日
※3 日医ニュース「新たな専門医の仕組みに懸念を表明」2016年3月5日
※4 社会保障審議会第44回医療部会(議事録)、2016年2月18日
※5 全国市長会『国民不在の新専門医制度を危惧し、拙速に進めることに反対する緊急要望』2017年4月12日
※6 メディ・ウォッチ掲載記事、2017年4月25日
※7 朝日新聞記事、2017年5月18日
※8 Yahoo!リアルタイム検索「専門医制度」