新専門医制度によって医師の転職事情はどう変わってきたか?<専門医制度と医師の転職事情②>

専門医制度変わるけど転職に影響あるの?

 

新専門医制度は医師の転職事情にどのような影響を与えているのか?

専門医制度と医師の転職事情について、2017年5月18日に掲載した第1回では最新の専門医制度の現状について、主に厚生労働省の発表資料をもとに整理しました。第2回となる今回は、新専門医制度が医師の転職に与えている影響について調査します。

調査の背景としては、日本専門医機構が2014年5月に設立されてから、およそ3年が経過してもなお新専門医制度をめぐる議論が続いており、その間にも多くの医師が転職を検討し実際に転職しているということが挙げられます。

転職理由に「専門医」の資格を挙げる医師も一定数いるため(下記転職理由例参照)、専門医制度の変更は医師の転職やキャリアにも少なからず影響を与えていると考えられます。

  • <「専門医の取得や維持」を理由として挙げている医師の転職理由例>

    • 現在の病院で手術件数の減少が見込まれ、麻酔科専門医の維持が難しくなることが予想されるため。
    • リハビリテーション科専門医取得のため。
    • 小児科専門医資格を維持するため。
    • 皮膚科専門医を取得すべく大学病院に勤務しているが、給与や勤務時間などに不満があり、より良い条件で専門医取得可能な病院があれば転職したいと考えたため。
    • 放射線科診断専門医取得のため。
    • 今後人間ドック専門医を取得できる場所で研修したいため。
    • 新専門医制度が延期となり、旧制度で内科系の専門医を取得できる病院があれば転職したいと考えたため。
    • 整形外科の専門研修の継続のため。
※2016年の医師転職ドットコム利用者アンケートより。匿名性担保のため一部文言を変更。

 

そこで、新専門医制度によって医師の転職事情が具体的にどのように変わってきているのかについて、実際に多くの医師の転職支援を行なっているメディウェルのコンサルタント2名にインタビューを行ないました。以下にその結果をまとめたものを紹介します。

医師を採用する医療機関が専門医制度の変更によって受けている影響

まず医師の募集・採用を行なっている医療機関の動向はどうなっているのでしょうか?「○○の専門医」が取れるということは医療機関にとってのアピールポイントの一つといえますが、これまで専門医の研修が可能であった医療機関はどうして(考えて)いるのでしょうか?以下にその回答の内容をまとめます。

    • 今後、専門医機構のプログラム制に移行すると、大学病院など大規模な基幹病院で研修を受ける必要があるため、以前のように医師を招聘することができないと危惧している病院担当者は多い。
    • 民間病院で基幹病院になれる病院は少なく、特に中小の病院では今後専門医の取得が厳しくなる可能性がある。
    • 規模の大きいグループ病院の本院であっても、なかなか基幹病院にはなれないという話も出てきている。
    • 初期研修と後期研修を同じ病院で受ける医師も一定数いるため、後期研修で基幹病院が難しいと初期研修のマッチングの時点から影響が出てくる可能性がある。
    • 実際に基幹病院となることが難しいということから、医学生向けの合同説明会での出展を取りやめる病院も出ているという話もある。

このように、新専門医制度への移行に関する医療機関側の認識はかなり厳しい状況となっています。

ただし、つい先日(5月25日)開かれた、厚生労働省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」の第2回委員会での内科学会の発表資料※1で、基幹施設になかなかなれないという問題は内科の専門研修に関しては改善してきているという旨の報告がありました。具体的には、以下のような状況になってきています。

    • 基幹施設の8割以上が市中病院となっている。
    • 場合によっては大学病院が連携施設になることもある。
    • 545のプログラム(基幹施設)申請が行われており、参加施設数も2,937施設と現行制度の1,204施設を大きく上回る数になっている。
    • その結果、全国344の全ての医療圏に研修施設がある状態となった。

こちらはまだプログラム申請段階で、また内科に限った話でもありますが、新専門医制度をめぐる議論の方向性として地域医療への配慮が取り組み課題に挙げられているため、今後は市中病院で専門医が取れなくなる懸念は緩和されていくのかもしれません。

若手医師だけではない?新専門医制度が医師の転職に与える影響

次に転職する医師の動向はどうなっているのでしょうか?インタビューを行なったメディウェルのコンサルタントからは様々な話が出ましたが、「意外と中堅医師にも影響がある」という点が特に印象的だったため、以下にポイントをまとめました。

    • 新専門医制度はこれから専門医を取得する若手医師に特に影響が大きいように思われるが、実のところ中堅医師が転職するときにも影響がある。
    • 専門医の更新の問題もあるが、これから新専門医制度が変更されることで、今後転職先の病院で医師が集まらなくなる可能性があるのではないかという懸念がある。
    • 転職した病院で新たに医師が採用できなければ、病院で最も年数が浅い医師がいつまでも自分のままとなり、いわゆる「下っ端」の状態から抜けられなくなってしまうのではないかと考える医師もいる。
    • そのため、専門医取得済みの中堅医師であっても、病院の将来性を見極める上で、新専門医制度の変更について病院としてどういう方針なのかを転職時に確認したいという希望をいただくことがある。

これはあくまで影響の出ている1つのパターンに過ぎません。実際のところ、新専門医制度はこれ以外にも多くの面で中堅医師やベテラン医師の転職・キャリアに影響を及ぼしていると考えられます。

これから専門医を取りたい医師はどうしているのか?

それでは、新専門医制度の影響を直接的に受けることになる、これから専門医を取得しようとする医師はどうしているのでしょうか?以下に幾つかのパターンを紹介します。

①新専門医制度が適用される前に転職する

専門医制度が変更される前に旧専門医制度で取得できるように転職活動を行なう医師の動きが出ています。これには他院で既に後期研修を始めていたものの事情により転職して研修を継続する場合、2016年に1年延期が決まったタイミングで旧制度の専門医取得を目指した場合などがあります。

②専門医制度が変更された場合でも対応できるような医療機関へ転職する

新専門医制度の動向が不透明という認識から、旧制度・新制度のどちらであっても専門医の取得が可能な病院へ転職する医師もいます。

③新専門医制度がはっきりするまで大学病院に残る

将来的には民間病院への転職を希望しているものの、新専門医制度がはっきりしない間は大学病院に残って様子をうかがっている医師もいます。これは、民間病院で専門医を取れるかどうかという懸念の他に、制度変更で大学に医師が集中する場合、医局を離れることが得策かどうかといった不安・迷いもあるのではと考えられます。

④専門医の取得を諦めている

専門医取得のハードルの高さから、専門医取得を諦めている医師もいます。これは出産や育児といった事情を抱えている場合に比較的多く見られます。旧制度でも専門医の研修として常勤(週4日以上)を要件としている学会が多いため、勤務時間に制約がある場合は取得が難しくなってしまっています。

専門医制度の変更に伴って、今後専門医取得のための条件が難しくなるようであれば、取得を諦める医師は更に増えてくることが予想されます。

 
上記のパターンの対応のうち、どれが適切かは医師それぞれの事情にも拠ると思われますが、新専門医制度の議論に関する決着がつくまで、これから専門医を取ろうという医師にとっては落ち着かない状態が続くと考えられます。

まとめ

以上、新専門医制度が医師の転職に与えている影響について、医療機関、中堅・ベテラン医師・若手医師それぞれについてみてきました。結果として、やはり医師を採用する医療機関にとっても、転職を考える医師にとっても専門医制度の変更は影響が大きいといえます。

しかし、直近では5月25日にも動きがあったように、新専門医制度の議論は現在も続いており、再延期の可能性も含めてどうなるのか未だはっきりとしていない状況です。今後の動向について、医師転職研究所では引き続き最新の情報をお伝えしていきます。

 
参考資料
※1 日本内科学会提出資料『新しい内科専門医制度 制度以降に向けた特徴的なポイント ~「地域医療への配慮」と「キャリア形成への配慮」を中心に~』2017年5月25日