麻酔科の医師転職お役立ちコラム
麻酔科の「訴訟事例」
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診療科によって様々な医師の転職市場。特に医師の求人・募集状況や転職時のポイントは科目ごとに異なります。麻酔科医師の転職成功のため、医師転職ドットコムが徹底調査した麻酔科医師向けの転職お役立ち情報をお届けします。
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1数字で見る訴訟の現状
〈医事関係訴訟委員会のデータによる、近年の訴訟件数やその推移〉
まずは客観的な数値として、最高裁判所の中に設置された「医事関係訴訟委員会」で出されている医事関係訴訟に関する統計データを見ていきましょう。医事関係訴訟事件(地裁)の、「診療科目別既済件数」です。麻酔科関連はここ3年間で次のように推移しています。
平成24年 9件
平成25年 2件
平成26年 6件
注1)この数値は、各診療科における医療事故の起こりやすさを表すものではありません。
注2)複数の診療科目に該当する場合は、そのうちの主要な一科目に計上されています。
注3)平成26年の数値は速報値です。
2麻酔科に関連する訴訟事例
〈実際の訴訟事例〉
次に麻酔科に関連する訴訟事例をいくつか見ていきましょう。
【事例1】
患者(昭和26年生、女性)は平成11年3月29日、右脚を骨折して被告病院(総合病院)の整形外科を受診し、右大腿骨頸部骨折と診断された。4月5日、患者は右大腿骨頸部骨折に対する観血的整復固定術を受けた。
患者は14時25分、手術室に入室し、14時30分麻酔導入が終了。14時58分、手術が開始され15時42分に終了した。看護師らは患者を仰臥位のまま牽引手術台からストレッチャーに平行移動させた。麻酔科A医師は麻酔状態からの覚醒が遅延していたため、採血したところ、血糖値は180mg/dlであった。15時54分、患者に心室性期外収縮、多源性不整脈が出現し、ETC02(終末呼気二酸化炭素分圧)が8ないし10㎜Hgに低下した。A医師は血圧を測定するとともに、バッグも軽く押すことができ、患者の胸も上がっており、聴診音に問題がないことを確認した後、別室で待機していた麻酔科部長のB医師の応援を要請した。患者の血圧は55/30、脈拍は66、Sp02(経皮的動脈血酸素飽和度)は98あり、A医師は点滴を全開にしてエフェドリンを静脈内投与した。間もなくB医師が手術室に到着したが、16時00分、患者の血圧は52/30、Sp02は89に低下し、16時10分には脈拍が40になりETC02は8㎜Hgのままで、16時15分には瞳孔やや散大となり、血圧は75/53、脈拍は30になった。エフェドリン、硫酸アトロピンやボスミン等が投与されたが患者の血圧は回復せず、16時20分、高度の徐脈、血圧低下が生じ、心停止寸前に陥り、B医師は心臓マッサージを開始した。16時25分、患者に完全房室ブロックが生じ、ラリンゲルマスクから気管内挿管に変更され、17時05分に患者の心拍が再開した。
患者には、運動障害、意識障害、言語障害等の低酸素脳症の後遺症が残り、身体障害者等級第1級の認定を受けた。
患者は、被告病院を開設する法人に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。
東京地方裁判所 平成17年3月25日判決
結論: 請求棄却
引用元: 過去の医療事故・医療過誤(医療ミス)の裁判事例 麻酔科 東京地判平成17年3月25日判決(堀法律事務所)
http://www.iryoukago-bengo.jp/article/14350292.html
【事例2】
次に、麻酔科に限定せず麻酔領域における医師・歯科医師刑事訴訟例を麻酔の種類別にいくつか挙げていきます。
■全身麻酔
1998年 外科医による酸素と亜酸化窒素の誤投与 処分区分: 略式命令請求
1998年 外科医急速輸液による肺水腫 処分区分: 略式命令請求
2004年 麻酔科医による食道挿管 処分区分: 略式命令請求
■脊髄くも膜下・硬膜外麻酔
1997年 産婦人科医によるジブカイン脊髄くも膜下麻酔ショック 処分区分: 略式命令請求
2001年 外科医による癌性疼痛への硬膜外麻酔後全脊髄くも膜下麻酔 処分区分: 公判請求
■局所麻酔
2006年 歯科医による局所麻酔薬ショック 処分区分: 公判請求
■その他
2001年 麻酔科指導医、心臓手術後 ICU内心停止 処分区分: 略式命令請求
2003年 麻酔科研修医、心臓手術後 ICU内心停止 処分区分: 公判請求
2003年 手術室での患者取違え、麻酔科医 処分区分: 公判請求
2007年 手術室での患者取違え、麻酔科医 処分区分: 公判請求
引用元: 麻酔領域における刑事訴訟について(丸石製薬株式会社)
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med2/files/anesth/book/17/10.pdf?1368494207
3麻酔科関係の訴訟の現状
〈麻酔科学会でガイドラインを策定。それに基づく刑事追訴事例も〉
麻酔科の訴訟は冒頭に掲げた数値の通り、比較的少ない傾向があります。また各学会が診療におけるガイドラインを定めており、この記載内容をもとに訴訟が行われるようになってきていますが、麻酔科のガイドライン記載内容を根拠とする刑事訴追の例としては次のものが挙げられます。
“2008年に起きた麻酔科医が後期研修医の指導のため手術室不在時、麻酔器の蛇管が外れた事に起因する事故が発生。”
引用元: ガイドライン(指針)を根拠に刑事訴訟に至った事例の検討(日臨麻会誌Vol.35)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/35/1/35_120/_article/-char/ja/
4麻酔科医たちの声
〈麻酔前にのみ対象患者と接する事でリスクも〉
麻酔科では2の項で挙げた【事例2】のように、患者の取り違え事件がいくつか発生しています。これは麻酔科医が麻酔前にのみ対象患者と接するのが一般的で、それにより麻酔導入時における患者確認は不十分になる可能性があるため、という声も聞かれます。
なお上に挙げた事例では「麻酔科医の患者確認に関する責任」が判例として確定していて、今後の教訓とするべき事例ともされています。