内分泌・糖尿病・代謝内科の医師転職お役立ちコラム
内分泌・糖尿病・代謝内科の「訴訟事例」
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1内分泌・糖尿病・代謝内科の訴訟
〈ここで扱っていくもの〉内分泌・糖尿病・代謝内科で関わる代表的な病気が糖尿病になります。糖尿病は言うまでも無く生活習慣病を代表するもので、それだけに患者数も多くあります。ここではその糖尿病を中心にした訴訟や事故の例をいくつか紹介していきたいと思います。
2内分泌・糖尿病・代謝内科に関連する訴訟事例
〈実際の訴訟事例〉
それでは内分泌・糖尿病・代謝内科に関連する訴訟事例を具体的に見ていきましょう。
【事例1】
■概要
IDDMの若い男性の患者さんが、ある時期からインスリンを含む治療を開始したところ、HbA1C値は改善したものの、増殖性網膜症から牽引性網膜剥離になり、眼科的治療にも関わらず、視力の著しい低下を招いた事例である。この網膜症悪化について、患者さん側は、糖尿病内科医の治療に責任があるとして訴訟を考えているのであるが、この点を法律的にまた医学的にどう考えていくべきかというのが、ここでの問題点である。
■事例の詳細
昭和60年(1985年)18歳:IDDM発症。食事コントロ-ル不良。平成4年(1992年)24歳:血糖値(以下BS)は高く(300~600mg/dl),HbA1C10~14%(正常6%以下)。眼底SCott0(網膜症なし)。食事療法を守れず、インシュリンも打ったり打たなかったり。治療の中断がしばしばあり。血糖コントロ-ルも不良。
(経過略)
糖尿病性網膜症はなぜ急激に悪化。
糖尿病網膜症は、長期的に見れば、血糖値、HbA1C値に比例して悪化してゆく。合併症を防ぐためにも、血糖値、HbA1C値を下げることが糖尿病治療の基本であるのはもちろんである。しかし、長期間放置された糖尿病患者で、特に若年症例に於いては、急激な血糖コントロ-ルを行うと、網膜症が悪化するケースが多数報告されている。網膜症がほとんどなかった症例が半年以内に増殖性網膜症になった例も報告されている。
■考察
「1血糖コントロールが不良(HbA1C値が9.0%以上)、2血糖コントロール不良期間が長い(3年以上)、3糖尿病罹病期間が長い(10年以上)、4内科的治療法としてインスリン治療を要する、5前増殖網膜症または増殖網膜症を有している、6単純網膜症であるが網膜症の活動性が高い、このような背景を2つ以上有している症例に対しては短期間(6ヶ月以内)に急激な血糖是正(HbA1C値で3.0%以上)を行うことは避けるべきであると考えられる。」との内容である。即ち、月平均HbA1C値0.5%の改善が限度ということになる。
本件事例は、1、2、4、5を満たしているから、糖尿病内科医は急激な血糖値改善を避け、もう少し緩やかな血糖値改善を選択すべきだったことになる(当事例は平成7年5月HbA1C12.8%、同8月7.9%で、月平均1.6%の改善をしている)。
引用元: 糖尿病治療と糖尿病性網膜症との関係における法律的問題(岩瀬眼科医院)
【事例2】
患者さんは23歳の男性で、京都大学の学生。元々肥満体でしたが、口渇・多尿・怠さ・体重の減少といった典型的な糖尿病の症状が起こり、当日の朝裸で転がって苦しんでいるのを父親が見つけ、救急車でこの病院(民間病院内科)に運び込まれました。
その時の状態は脱水がひどく、意識が鈍く、吐く息にはケトン臭という甘い匂いがありました。尿検査では糖が3+、ケトン体も3+。問題の血糖値は、簡単な器械で測ると368、実際には1164というベラボウに高い値(通常は100前後)です。またクレアチニンも2.2と高く、腎不全が起こりかけています。
これだけで糖尿病性ケトアシドーシスと分ります。これは糖尿病の合併症の中で緊急治療を必要とするものです。生理食塩水の点滴とインスリンを沢山使って、脱水を取り血糖値を下げてやります。こわい病気ではありますが、普通の内科医にとって診断・治療はさほど難しくありません。
ところが担当したA医師は何と食事を出し、普通の点滴を指示しただけでした。緊急性の素振りもありません。
午後患者さんが興奮状態になると、「精神病もある」と決め付け、インスリンをわずか5単位点滴に入れただけで、鎮静剤を注射しました。患者さんは昏睡に陥りました。
翌日血圧が44にまで下り、尿が出なくなりました。血糖値は下るどころか1400に跳ね上り、クレアチニンも6.6と完全な腎不全になっています。
別のB医師が診察し、ここで初めて糖尿病性昏睡と診断され、生理食塩水の大量の点滴とインスリンによる、本格的な治療が始まりました。――この病院に来てからすでに1日半が経っていました。
この結果翌日にはもう血糖値が下り、意識も戻って来ましたが、腎不全はこのようにどんどん進み、さらに心不全が起こって来ました。糖尿病性昏睡の誤診療に対する大学教授の不正な鑑定(医療消費者ネットワーク MECON)
3内分泌・糖尿病・代謝内科関係の訴訟の現状
〈この分野で多く見られる医療事故〉
糖尿病診療ではここまで見て来た事例のように顕在化したもの以外にも、数多くのヒヤリ・ハット事例が存在すると言います。またその中で特に多いのがインスリンを含む薬物療法に関する事と言いますので、このあたりの情報は日頃からきちんと押さえておくべきでしょう。
また医師や医療機関に対する訴訟ではないため今回紹介は行っていませんが、糖尿病に関係しては日本の薬品メーカーがアメリカで訴訟を起こされ24億ドルもの和解金の支払いが起きた、というニュースも世間では大きな話題になりました。医療界の大きなトピックスとしてこの経過も追っていきたいものです。
4内分泌・糖尿病・代謝内科の訴訟への対処
〈医療事故を防ぐための医師たちの取り組み〉
上記のヒヤリ・ハット事例については医師個人任せではなく、それをデータとしてきちんと共有できる体制が医療機関側で取られている事も大切です。日々勤務していく施設がそうした事例をきちんとデータベース化ししているかなど、事前に可能な限りチェックする事で訴訟リスクを大きく回避する事ができるでしょう。日本医師会による「医療従事者のための医療安全対策マニュアル」に記載された「安全管理体制の整備」にはチェックすべきポイントがよくまとまっていますので、これを基に勤務する医療機関の安全体制に関するチェックをするのも良さそうです。