ペインクリニックの医師転職お役立ちコラム
ペインクリニックの「訴訟事例」
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1ペインクリニックの訴訟
〈数値と考察から見る訴訟の概要〉
ペインクリニックに関連するという事で、麻酔科の訴訟件数を最初に挙げておきましょう。最高裁判所の中に設置された「医事関係訴訟委員会」から出されている統計データによると、平成24年で9件、平成25年で2件、平成26年で6件となっています。
年を追うごとに医療訴訟が増加、また敗訴例が増えている印象があるものの、一方で日本臨床麻酔学会誌に掲載された考察では掲載媒体がそうした事例を意図的に取り上げている面もあるとしています。また例えばフェノールブロックに対してもその適応範囲に対する評価が変わってくるなど中身の変化もあるため、過去からの数の推移からだけで訴訟や結果を論じると見えなくなる面がありそうです。
2ペインクリニックに関連する訴訟事例
〈実際の訴訟事例〉
次にペインクリニックに関連する訴訟事例をいくつか見ていきましょう。なお事例はペインクリニックそのものではなくそれに関係するものも含み紹介しています。
【事例1】
■事案の概要
本件は、採血担当者が注射針による穿刺手技を行ったところ、被採血者の左外側前腕皮神経が損傷し、CRPS(複合性局所疼痛症候群)Ⅱ型を発症したとして、損害賠償を求めた案件。
■事実経過
1.平成21年3月、被採血者は、採血用の注射の針先を穿刺された瞬間、左腕に激しい電撃痛を覚えた。
その後、被採血者は、痛みが治まらず、また感覚がなくなっている部位もあることから、整形外科で治療を受けていたが、同医師からペインクリニックへの紹介状を書いてもらい、麻酔科を受診したところ、CRPS(複合性局所疼痛症候群)Ⅱ型と診断された。
2.被採血者は、星状神経節ブロック、左上腕神経叢ブロック、硬膜外カテーテルによる硬膜外注入、脊髄刺激リード埋込術による脊髄硬膜外刺激療法等の治療を受けるも、同年7月、難治性の左上肢痛と診断された。
なお、平成22年4月のレントゲン検査では、軽度の左手指骨萎縮が認められており、平成23年1月14日には末梢神経障害性疼痛と診断された。
3.平成24年提訴。訴額は当初は、385万円、その後、後遺障害分を増額して、2050万円に請求の趣旨を変更。
4.平成26年に、請求額の数割程度の金額で訴訟上の和解成立。
引用元: (医療訴訟)解決例の紹介・いわゆる針刺し事故の事例で訴訟上の和解成立(高橋智法律事務所)
【事例2】
■概要
手掌多汗症に対する胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(Endoscopic Thoracic Sympathectomy;ETS)を受けた患者(男性、手術当時30歳)が、術後、ETSに起因して代償性発汗が生じた。本件は、患者が、担当医には、(1)ETSの手術適応がなかったのにETSを行った適応義務違反があった、(2)説明義務違反があったなどと主張して、病院に対して損害賠償を求め、請求の一部が認められた事案。
■経過(一部)
平成10年3月17日 H病院皮膚科
患者Aは、H病院を受診。最初に、H病院の皮膚科の外来診察を受け、皮膚科の担当医に対して10年来の多汗症で、両手掌と腋窩に多汗があると申告した。診察の結果、手掌に軽度の落屑があるとして、多汗症と診断され、ペインクリニック科を紹介された。Aは、H病院ペインクリニック科を受診し、医師の診察の前に、問診用紙に記入をした。Aは、問診用紙に記入をして看護師に渡した後、多汗症に関するビデオを視聴するとともに、多汗症等に関するパンフレットを交付された。ビデオとパンフレットには、代償性発汗について次のような説明または記載がされていた。
1.ビデオの説明内容術後、長期にわたって残る続発症は、ETSがもたらす効果の裏返しの関係にあり、手の汗を止めて快適な生活をするには、ある程度の負担を覚悟していただかなければならないといえる。その中でも、最も頻度が高いのは、手や脇の汗が止まるとともに、それまで余り汗をかかなかった背中や腹部、さらには臀部などの発汗が増加する代償性発汗である。これは、個人差があるが、ETSを受けたほとんどの人に起こる現象である。
2.パンフレットの記載内容ETSは、交感神経を切除するものであるため、手術後に何らかの副作用が出てくる。ETSの効果が半永久的に続くのと同様に副作用も長期間続くものがある。長期間にわたって続く副作用としては、代償性発汗があり、手術の効果が及ばない範囲である腰や臀部、下肢の汗の量が手術前より増える。もともと汗の出る原因は体温調整のためであるが、ETSを行うと顔や手などの胸より上の部分の汗が止まるため、それより下の部分の汗の量が増える。これはほとんどの患者に起こるが、代償性発汗を自覚しているのは約3分の2の患者である。つまり、手術後には足の汗が増える可能性が高いということである。一度に手と足の両方の汗を止めたら腰などの代償性発汗がひどいことが予想される。
Aは、ビデオを視聴した後、O医師の診察を受けた。Aは、O医師に対し、手掌、腋窩および足底が多汗であること、うっすら汗をかいていた手を見せながら、手掌に汗が多くて、テストの紙が湿ったりするような状態なので、人と握手したり、手をつないだり、その他、人と接することが億劫になってくること、幼少時は気にしていなかったが、高校生ぐらいから手の汗が人とのコミュニケーションの妨げになっていることなどを話した。
(経過略)
平成10年7月4日AはI病院でETSを受けた(執刀医はO医師)。
A は、本件手術直後から代償性発汗により、腹部、背部、大腿部に多量の汗をかいて、着衣のみならず、布団もびっしょり濡れるほどであった。
引用元:手掌多汗症に対する胸部交感神経遮断術と説明義務の内容(メディカルオンライン)
3ペインクリニック関係の訴訟の現状
〈ペインクリニックで起こった訴訟と判例〉
2000年までの記録になりますが、ペインクリニックに関する訴訟についてはショック死や歩行困難、下肢機能全廃となった例などが複数報告されています。
また冒頭で書いたようフェノールブロックによるものは、1980年代後半や1990年代前半は過失責任無しとされたものがあるものの、1997年には過失責任有りというものが出て来て、同じ医療行為に対するものでも内容や時代の変化による判例の違いをよく見ていく必要がありそうです。これは特にペインクリニックという分野が確立されていく過程だからこそ多く起こる判例の変更とも言えるかもしれません。
4ペインクリニックの訴訟への対処
〈医療事故を防ぐための医師たちの取り組み〉
訴訟やそれ寸前までのヒヤリ・ハットに関する報告が増えている現在ですから、医師個人としての対策も重要になってきています。医師に向けての研修には昨今の訴訟の増加を考え、最低限必要な法的知識が取り入れられるなどしています。こうした講座や研修に参加するのも、いざという時のための備えになりそうです。
ペインクリニック(麻酔科)を持つ医療機関もこうした事故対策についての取り組みをいくつも行っています。ブロック等の厳格な適応の選択、合併症発症時の救急蘇生を含む対処などはその一例です。もちろん一科目だけでの意識や高まりでは対応できないため、勤務する病院側がこれらにどれぐらい理解や環境を整えているかも重要でしょう。