定年後の医師向け?介護老人保険施設(老健)での勤務のメリット・デメリット

高齢の医師向け?介護老人保険施設(老健)での勤務のメリット・デメリット

介護老人保健施設(老健)の運営には医師を配置する必要があり、実際に医師の約1%が老健で勤務しています(主たる業務の種別)。その担い手の多くは高齢医師であり、老健に従事する医師の平均年齢は70歳となっています(医師全体では51歳、2022年度医師・歯科医師・薬剤師統計より)。
 
実際、医師にとって老健はどのような特徴をもつ勤務先なのでしょうか?医師アンケートからメリット・デメリットについて見ていきます。(回答者の属性)

老健に(アルバイトも含め)勤務経験のある医師は2割以上

老健を主たる勤務先としている医師は全国調査で約1%となっていますが、アルバイトを含めて勤務経験として老健に勤めたことのある医師はどれぐらいいるのでしょうか?結果は下図のようになっています。

22.9%の医師が老健に勤務経験あり

「勤務している」が4.4%、「過去に勤務したことがある」が18.5%と、合わせて22.9%の医師が老健に勤務経験があるという状況です。

医師が老健で勤務するメリット

老健に勤務経験のある医師にそのメリットについて尋ねたところ、下記のような自由回答がありました(一部を紹介)。

    • ゆったり勤務できる

    • 時間がゆったりと流れている(40代女性、小児外科)  
    • 比較的自由に時間が使える(60代男性、老年内科)  
    • 急変する人がいなければ暇で良い。(40代男性、精神科)  
    • 時間的余裕をもって仕事ができる(40代男性、消化器外科)  
    • 落ち着いてる時は仕事が少ない(30代女性、内分泌・糖尿病・代謝内科)
    • 心身の負担が少ない

    • 穏やかな職場でストレスは少ない。(60代男性、血液内科)  
    • 比較的楽な仕事内容(50代男性、一般内科)  
    • 体力的に楽です。(60代男性、一般内科)  
    • 責任の重圧が少ない。定時で帰宅できる。(70歳以上男性、老年内科)  
    • 治療のリスクはあまり冒さなくても病院へ紹介すればよい(50代男性、神経内科)
    • イレギュラーや緊急対応が少ない

    • 急激な変化が比較的少ない(50代男性、小児科)  
    • 臨時対応が少ない(40代男性、泌尿器科)  
    • イレギュラーが少なく予定が立てやすい(40代女性、呼吸器内科)  
    • 定時帰宅が可能。予め申請していれば勤務日数に融通が効くため子育て中の女医にとっては働きやすい。(40代女性、一般内科)  
    • 比較的安定した患者さんが多く、業務上のリスクは少ないと思います。(60代男性、病理診断科)
    • 負担の少ないアルバイト・収入源になる

    • アルバイトとしてなら特に負担がない(40代男性、消化器外科)  
    • 研修医の時にバイトとして勤務 給料の補填の意味合いが多かった(40代女性、婦人科)  
    • 楽に稼げる(40代男性、麻酔科)  
    • 遠かったが給料はよかった。(60代男性、眼科)  
    • バイト先としてバランスがとれている(40代男性、小児科)
    • 患者さんにじっくり向き合える

    • 患者さん一人一人にじっくり向かいあうことが出来る。(60代女性、一般内科)  
    • 特に看取りは、きちんとやってます。ご家族からも感謝されつつ。(60代男性、総合診療科)  
    • 人生の終わりに寄り添うことができる(30代女性、精神科)  
    • 医師の自由度が高く、高齢者に寄り添うことができる。(70歳以上男性、消化器内科)  
    • ゆったりとじっくりと患者さんと向き合える。(30代女性、腎臓内科)
    • その他

    • 健康保険とは無縁なので、適応症や支払基金を気にする必要がない。(60代男性、一般内科)  
    • 老健へ戻る又は入居するとどういう環境かをよく知れるので、普段急性期で見ている患者さんの今後をイメージしやすい(30代女性、乳腺外科)  
    • 施設での勤務なので、ある程度の物品は揃っているところ(40代男性、乳腺外科)  
    • 医療機関と違い、看護・介護が主体です。 そして全身を診ることができるので、内科的経験の乏しい私には「主治医意見書」の作成など、学ぶことが多かったです。(60代男性、耳鼻咽喉科)  
    • 認知症の症例を多く経験できる(40代女性、精神科)

医師が老健で勤務するデメリット

逆に医師が老健で勤務するデメリットはどんなところにあるのでしょうか?勤務経験のある医師からは以下のような回答が挙げられました(自由回答の一部を紹介)。

    • やりがいを感じにくい

    • 新しいことは少なく管理がメイン、診療の楽しさは少ない(50代男性、一般内科)  
    • 暇。得るものもない。(40代女性、整形外科)  
    • 医師としてのやりがいを感じにくい(30代男性、神経内科)  
    • 仕事にハリを感じない。(30代男性、呼吸器外科)  
    • 慢性期の患者ばかりで飽きがくる可能性がある(40代男性、腎臓内科)
    • 医師としての知識やスキルを磨けない

    • 急変対応や急性期管理など若い時に培ってきた技量が落ちざるを得ない、新薬の知識にうとくなる。 急性期のように検査ができないため 医療機関受診の目安をつけることが難しい。職員は医療者ではないため 医療内容を伝える時には まるで患者に伝えるように噛み砕いて話す必要がある(40代女性、一般内科)  
    • 技術向上が難しい(50代男性、一般内科)  
    • キャリアには全くならない。 医師の技術も上がらない。(40代男性、耳鼻咽喉科)  
    • やる気をなくす。医学知識や最新の治療から遠ざかる恐れがある(50代男性、循環器内科)  
    • 自分の医師のキャリアとして成長を促すような仕事ではないと思う。(30代男性、整形外科)
    • 医療としてできることが限られる

    • 医療費用がほぼ持ち出しなので使える薬が制限される。検査機器がないので、看取り希望以外の重症者を受け入れにくい。(60代男性、一般内科)  
    • 介護枠予算しかないので治療に制限がどうしてもかかる(50代男性、神経内科)  
    • 診断、治療手段が限られるため判断に迷うことがある(60代男性、老年内科)  
    • コスト的な要求からは、できるだけ『医師として』働かないことが求められる(マルメ内での損失を抑えるため)。しかし名目上の業務内容としては、一人であらゆる疾患や治療に対応できる、離島のスーパードクター的な働きが要求されている。矛盾の極みである。(60代男性、一般内科)  
    • 利用者の体調不良に際して、医師としてできることが少ない(30代女性、一般内科)
    • スタッフとの人間関係や医療知識の理解に苦労する

    • 経営陣およびコメディカルとの関係が重要。あまり自分の意見が通らない。適応の良し悪しで左右されると思います。(60代男性、一般内科)  
    • スタッフのリテラシーや民度、知的能力が限りなく低い。話が通じない。医療のレベルが低い。利用者が急変して基幹病院へ夜間休日搬送もありうるが、急変患者のスタッフの対応能力がまちまち(概して低い)、そこに自分自身が巻き込まれる。(40代男性、小児科)  
    • 人員とのモチベーションとの差が大きくなりがちで、それらの対応にストレスを感じることが多い(40代女性、呼吸器内科)  
    • 医療知識の乏しいスタッフが大半なところ(40代男性、乳腺外科)  
    • 非医師の文系事務員が会社形式で行っているものが増えている。専門家でないものが頂点であるからリスクが大きい。(70歳以上男性、一般内科)
    • 臨床以外の業務や看取り対応が負担

    • 臨床以外の業務が多い。高齢者の多い現場なので急変のリスクがある(60代女性、一般内科)  
    • 後方支援病院がなかったので、深夜や休日でも出勤や電話指示が必要だった。稼働率を維持するのが大変。(60代女性、一般内科)  
    • 死亡確認が多い。(50代男性、リハビリテーション)  
    • 土日でも看取りで呼ばれる。夜間も施設から電話がある。専門以外の病気も対応が必要。(60代男性、泌尿器科)  
    • 医師が一人なので24時間縛られる。(70歳以上男性、一般内科)
    • 急変や訴訟のリスクがある

    • 死亡例が多いので訴訟リスクがそれなりにあること(50代男性、小児科)  
    • 急変時対応。DNRがしっかりとれていれば問題ないとは思うが、徘徊や発熱など多そう(30代女性、健診・人間ドック)  
    • やはり老人が対象になるので急変のリスクがある(50代男性、皮膚科)  
    • 給与が低め。延命や救命希望がある家族がいたりするが、病院と比べてマンパワーが乏しく検査もほとんど行えないため、訴訟リスクが心配。夜間や週末の看取りの可能性があり、旅行がしづらい。(40代女性、老年内科)  
    • 合併症が多い高齢者が急変した場合に家族の対応や緊急搬送先を見つけるのが大変。(60代男性、一般内科)
    • 給料が安い

    • 収益構造としては高望みできないため、給与も低くならざるを得ない(40代男性、一般内科)  
    • 給料は低め(30代女性、血液内科)  
    • 収入が低い(50代男性、泌尿器科)  
    • 給料がやすい、やりがいが少ない(50代男性、精神科)  
    • 単価が安い(50代男性、精神科)
    • その他

    • 患者さんが高齢者ばかりであること(50代男性、消化器内科)  
    • 死のかかわりが強いため精神的にしっかりする必要がある(50代女性、形成外科)  
    • 急性期の医療からはマインドの切り替えが必要(50代女性、その他診療科)  
    • 提携の病院があれば特に問題はないと思う(40代女性、婦人科)  
    • 意思疎通が取れないことが多い(40代女性、皮膚科)

老健での医師の勤務満足度は?

上記のように老健での勤務にもメリット・デメリットがそれぞれありますが、勤務経験のある医師にとって老健の満足度はどれぐらいなのでしょうか?結果は下図となっています。

65.9%の医師が老健勤務に一定程度「満足」

「満足している」が15.2%、「どちらかといえば満足している」が50.7%と、合わせて65.9%の医師が一定程度「満足」しているという結果となっています。

老健での勤務はどんな医師に向いている?

高齢医師向けというイメージが強い老健勤務ですが、実際にどのような医師に向いているのでしょうか?勤務経験のある医師からは、以下のような回答が多く寄せられました(自由回答の一部紹介)。

    • 定年後やリタイアした医師

    • 経験豊富だが体力の落ちてきた老年期に近い医師(40代女性、神経内科)  
    • 定年後の医師(60代男性、血液内科)  
    • 爺医または家庭を持つ女医(50代男性、精神科)  
    • リタイア(気味)の医師(30代男性、消化器内科)  
    • 第一線を退いたベテラン医師。(60代男性、一般内科)
    • ゆったり働きたい医師

    • 急性期に疲れた医師(60代男性、一般外科)  
    • ゆったりとした勤務が好きな医師(30代男性、泌尿器科)  
    • のんびり診療したい医師(40代女性、老年内科)  
    • マイペースで働きたい医師(40代男性、一般内科)  
    • 出世や向上の欲が少なく、ゆったりのんびり生活したい医師(50代男性、循環器内科)
    • 幅広く全身を診られる医師

    • 全身管理に慣れている、総合内科医。(60代女性、一般内科)  
    • 外科、内科が何でも対応できる医師(60代男性、総合診療科)  
    • いろんな年齢層に対応できる。ある程度経験豊富な医師に向いていると思う。(70歳以上男性、一般外科)  
    • 臨床を長い間やって、広く各科に通じた医師。(70歳以上男性、一般内科)  
    • 全身管理だけでなくリハマインドも持った医師(40代男性、リハビリテーション)
    • 高齢者に優しくじっくり向き合うのが好きな医師

    • 高齢者に優しくできて、のんびりしたい医師(50代女性、一般内科)  
    • 老人が好きな医師(60代女性、健診・人間ドック)  
    • 病気治療以外の、生きがいや、生きざまにも触れながら、療養計画を進められる人。(50代男性、循環器内科)  
    • 多くの患者に追われるよりもじっくり患者に向き合いたい先生向き(70歳以上男性、消化器内科)  
    • 高齢者医療に興味のある医師。(60代男性、精神科)
    • 家族やスタッフとの連携を苦としない医師

    • 高齢者の希望、家族の希望を、叶えつつ、医療介護制度と、割り切れる医師(50代女性、一般内科)  
    • 認知症の老人や、クレーマー家族の相手をして話をするのが苦痛でない医師。(40代男性、一般内科)  
    • 夜勤の看護師さんの不安の解消につきあえる、夜の電話コールに耐えられる医師。(60代男性、老年内科)  
    • ゆったりと仕事したい人、プライマリの対応ができる人、家族やコメディカルとのコミュニケーションが上手な人。(30代女性、腎臓内科)  
    • スタッフと対等な目線で仕事ができる医師(40代男性、腎臓内科)
    • その他

    • 丸投げできる人。(40代男性、精神科)  
    • だれでもOK(40代男性、消化器外科)  
    • 楽だからではなく、取り組みたいことがある医師(50代男性、美容)  
    • ある程度の割り切り(40代男性、小児科)  
    • 育児中の女医(40代女性、一般内科)

老健の医師求人にはどんなものがある?年収帯は?

実際の老健での医師求人の傾向としては、施設長待遇が多く、週4日勤務できるような募集も多くなっています。また、看取り等の対応については、施設にもよりますが休日・夜間のオンコールなしの求人もあります。

年収自体は1,100万円~1,400万円が相場となっており、一般的な病院やクリニックの求人と比べるとやや低い傾向となっています。

病院やクリニックと比べると施設数が少ないため、アクセス面などで勤務可能かなども考慮のポイントになってきます。

参考:老健の常勤医師求人一覧(医師転職ドットコム)

老健での勤務で印象に残っている医師エピソード

医師は老健勤務どのようなことを経験するのでしょうか?勤務経験のある医師からのエピソードでは、以下のようなものがありました(自由回答の一部を紹介)。

老健なのに色々検査や治療を希望する患者家族がいた。病院ではない、健康保険が利かない、などいくら説明しても理解できない人がたまにいる。(60代男性、一般内科)

勤務初日にコロナ68人陽性のクラスターが起きていた(50代男性、一般内科)

看取り後、霊きゅう車のお迎え時にお見送りするのが冬だと物凄く寒かった(遺族の前でコートでもこもこになる訳にもいかず白衣のみで外で対応するため)(30代女性、健診・人間ドック)

病院じゃないからできない、でスタッフに断られることが多々あり できる治療はあるのにやるせない想いがありました。(40代男性、消化器内科)

寝当直先として若いときに働いていて、検食が美味しかった(40代女性、耳鼻咽喉科)

 

童謡を歌って聞かせてくれる人がいた。(30代男性、呼吸器外科)

急変時の方針が決まらず、搬送したが搬送先の医師が入院を決断せず施設に戻ってきた患者に対して家族との連携がうまく行かず苦労した。(50代男性、在宅診療)

顎関節亜脱臼を初めて徒手整復したこと(60代男性、一般内科)

診察で腹腔内の癌を疑って検査をご家族に勧めたが、ご家族が検査を入院検査を希望せず、そのまま診断がつかずになくなってしまったこと。(60代女性、一般内科)

看護師、介護士とのチームワークにおいてよい経験や勉強をさせて頂いた。(40代女性、精神科)

 

“医療”の現場に立ってきた医師にとって、”介護”の施設である老健での勤務では、考え方やできることできないことの違いなどで戸惑うこともあるようです。

一方で、上記で紹介したような勤務のメリットや、介護報酬の改定等での老健の役割の変遷などもあるため、自身の状況や希望と照らし合わせて合う・合わないを判断してみてはいかがでしょうか。

 

【参考】回答者の属性

調査概要

調査内容 病院以外の医師の勤務先に関するアンケート
調査対象者 株式会社メディウェルに登録している医師会員
調査時期 2025年6月21日~2025年6月30日
有効回答数 1,923件

 

年齢

年齢 回答数 割合
29歳以下

64

3.3%

30代

517

26.9%

40代

587

30.5%

50代

402

20.9%

60代

279

14.5%

70歳以上

74

3.8%

 

性別

性別 回答数 割合
男性

1,378

71.7%

女性

545

28.3%

 

診療科

現在の主たる診療科 回答数 割合
一般内科

253

13.2%

総合診療科

30

1.6%

消化器内科

100

5.2%

呼吸器内科

47

2.4%

循環器内科

67

3.5%

腎臓内科

29

1.5%

神経内科

33

1.7%

内分泌・糖尿病・代謝内科

56

2.9%

血液内科

19

1.0%

老年内科

27

1.4%

人工透析科

14

0.7%

リウマチ科

18

0.9%

一般外科

43

2.2%

消化器外科

59

3.1%

呼吸器外科

11

0.6%

心臓血管外科

9

0.5%

脳神経外科

39

2.0%

乳腺外科

14

0.7%

泌尿器科

48

2.5%

整形外科

112

5.8%

形成外科

34

1.8%

現在の主たる診療科 回答数 割合
美容外科

6

0.3%

小児外科

2

0.1%

眼科

59

3.1%

皮膚科

54

2.8%

耳鼻咽喉科

39

2.0%

精神科

148

7.7%

心療内科

8

0.4%

放射線科

45

2.3%

小児科

80

4.2%

産婦人科

65

3.4%

婦人科

26

1.4%

麻酔科

76

4.0%

救命救急

29

1.5%

ペインクリニック

4

0.2%

緩和ケア

7

0.4%

美容

27

1.4%

病理診断科

21

1.1%

在宅診療

24

1.2%

健診・人間ドック

57

3.0%

リハビリテーション

21

1.1%

上記以外

63

3.3%

 

地域

地域区分 回答数 割合
北海道・東北

164

8.5%

関東

773

40.2%

中部

281

14.6%

近畿

388

20.2%

中国・四国

120

6.2%

九州・沖縄

190

9.9%

不明・海外

7

0.4%

 

主たる勤務先

現在の主たる勤務先 回答数 割合
病院(大学病院以外)

922

47.9%

大学病院

203

10.6%

クリニック(勤務医)

452

23.5%

クリニック(開業医)

117

6.1%

一般企業

70

3.6%

介護施設

33

1.7%

休職中

44

2.3%

その他

82

4.3%

 

 

 

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