皮膚科医が開業すると年収や勤務環境はどう変わる?

臨床の道を進む皮膚科医のキャリアのひとつとして、開業という選択肢があります。

皮膚科医はクリニック勤務と病院勤務の医師の割合が6:4と、クリニックでの診療が全体の診療体制の多くを受け持っている診療科です。そのため、開業を身近にとらえる傾向があるといえます。

実際に皮膚科医が開業すると、勤務医時代と比べて年収や勤務環境はどのように変化するのでしょうか。また、開業するにあたって理解しておくべきリスクや対処法にはどのようなものがあるのでしょうか。

この記事では、皮膚科開業医が得ている収益や、他診療科の開業医との収入比較データなどを紹介しています。また、医師のキャリア支援に10年以上携わっているメディウェルのコンサルタントに聞いた「皮膚科医が開業するメリット・デメリット」もお伝えします。

 

皮膚科医が開業すると年収や勤務環境はどう変わる?

皮膚科開業医の収益状況

皮膚科開業医の医業収益と年収

厚生労働省が実施した第24回医療経済実態調査によると、個人が経営する皮膚科診療所の2022年の年間医業収益は、1施設あたり6,558万円でした。給与費などの支出を差し引いた損益差額は2,429万円となっています。


皮膚科診療所の収益内訳

上記を見ると、皮膚科開業医の年収(損益差額)[※]は約2,400万円となります。
これはメディウェルが2024年に調査した医師の年収の中央値である1,700万円を大きく上回っており、医師の中でも高収入であることがわかります。

医業収益のなかの支出にあたる「医業・介護費用」は計4,128万円で、内訳は多い順に給与費(1,710万円)、設備や医療機器の賃借料を含むその他費用(1,212万円)、医薬品費(727万円)などが挙げられています。

個人が営業する皮膚科診療所の医業収益と損益差額(1施設あたり)について、2014年から2022年の変化を比較した結果は次のグラフの通りです。


皮膚科診療所(個人)の医業収益と損益差額

年によってばらつきはありますが、医業収益はおおむね6,500万円~8,000万円弱で推移していることがわかります。

また、損益差額は2,700万円前後でほぼ横ばい状態の推移となっていますが、2020年に2,906万円まで増加し、2022年では2,429万円と少し下がっています。

皮膚科開業医の医業収益は低いが、損益差額は安定傾向

皮膚科の開業医は、他の診療科の開業医と比べてどのくらいの収益や収入を得ているのでしょうか。

第20回~24回医療経済実態調査における診療所の医業収益の変化を診療科別に比較したところ、皮膚科は全体平均と比べて医業収益がやや低い傾向にあることがわかりました。


皮膚科開業医の医業収益の推移と全体比較

一方で、年収(損益差額)については2022年以外で全体平均をやや上回る結果となっています。皮膚科開業医の医業収益は他診療科と比較して低い傾向にあるものの、安定して利益を出していることがうかがえます。


皮膚科開業医の年収(損益差額)の推移と全体比較

支出全体に占める医療機器賃借料の割合が低い傾向

また、皮膚科開業医の医業収益の内訳を詳しく見たところ、支出全体に占める医療機器賃借料の割合が全体に比べて低い傾向が見られました。


支出全体に占める医療機器賃借料の割合

皮膚科は他診療科に比べると検査や治療に医療機器を必要とする割合が低いことから、上記のような結果になったものと推測されます。

このデータは賃借料のみの比較であり、購入費用も含めた傾向は変わってくる可能性があります。そこで第20回医療経済実態調査調査の結果から、2014年度の支出全体に占める医療機器の減価償却費の割合を診療科別に比較したところ、やはり皮膚科は全体に比べて割合が低い傾向が見られました。古いデータではありますが、購入費用を含めても皮膚科の医療機器関連の支出は比較的少ないことが分かります。


支出全体に占める医療機器の減価償却費の割合(2014年度)

皮膚科開業医の年収は皮膚科勤務医の年収よりも1,000万円以上高い傾向

同じ皮膚科でも、勤務医と開業医の収入ではどれくらい違いがあるのでしょうか。
メディウェルが2024年に実施した会員医師向けアンケート調査では、皮膚科勤務医の年収の中央値は1,100万円でした。
これに対し、厚労省の調査によると2022年の皮膚科開業医の年収(損益差額)は2,429万円となっており、開業医の年収が勤務医の年収の中央値を約1,300万円も上回っていることが分かります。


皮膚科開業医の年収と勤務医の年収比較

皮膚科は開業しやすい診療科?

厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師統計(2022年)によると、皮膚科医全体における開業医の割合は39.0%でした。調査で区分されている42診療科のうち6番目に高い割合となっており、全診療科の平均値15.1%に比べても高い傾向にあります。


開業医の割合が高い診療科ランキング

開業医の割合が低い診療科ランキングでは、専門性が高くクリニック等で設備を整えることが難しい診療科や、他診療科と連携する機会が多い診療科など、いずれも開業ニーズが低い診療科が名を連ねています。


開業医の割合が低い診療科ランキング

皮膚科開業は東京に集中している

皮膚科開業の地域別の傾向として、東京都での競争が激化していることが分かっています。国の統計調査から人口10万人あたりの皮膚科診療所で働く医師数を算出し都道府県別に比較したところ、次のグラフのような結果となりました。


人口10万人あたりの皮膚科診療所勤務医の人数(2022年、主たる診療科として選択)

東京都では8.6人と全国平均の約1.7倍の数値となっており、他府県に比べて突出していることが見て取れます

ここまで見てきたデータから、皮膚科は開業率が比較的高く、また東京都でその傾向が特に強く出ていることがわかりました。

皮膚科医は他の診療科に比べて開業しやすいのでしょうか。また、どんな点が開業しやすさにつながっているのでしょうか。

メディウェルで10年以上医師の転職を支援してきたコンサルタントに、皮膚科の開業のしやすさについて聞きました。

患者層が広い

皮膚科の患者層は老若男女問わず幅広い世代が対象となります。その中でどの層に向けた診療をメインに行っていくのか、経営戦略の選択肢が多く独自の色を付けやすいといえます。

自由診療を取り入れやすい

また、収入を増やす手段として、美容分野の自由診療を行うことができます。

通常の保険診療に付け加えて、アンチエイジングや脱毛といった美容メニューを持つと収入アップにつなげられる可能性が高まります。

ただ、美容分野の自由診療に関しては一概に開業しやすさと直結するとは言えません。

専門的な施術・検査のための機器が必要となり、開業や経営にかかる費用が増えることにもつながるため、自由診療を実施する前提での開業は高コスト・高リスクとなるケースもあります。

場合によっては開業後にニーズを見ながら順次自由診療を導入していくことも視野に入れる必要があるでしょう。

皮膚科医が開業するメリット・デメリットとは?

皮膚科医が開業するメリットやデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

メディウェルで開業支援を担当するコンサルタントに聞いた、現場経験にもとづく情報をご紹介します。

メリット①QOLの向上が見込める

クリニックは入院患者を取らず外来中心の診療を行う施設がほとんどです。
皮膚科のクリニックも、外科的処置はありますが入院を伴うような手術などは扱わないケースが多く、当直やオンコールへの対応は基本的に不要です。

年収との兼ね合いもありますが働く時間を調整しやすいため、子育てと仕事を無理なく両立したいと考える女性医師の開業希望も多い診療科です。

メリット②自由診療の導入で高い収入を得られる可能性がある

「開業のしやすさ」でも触れていますが、皮膚科は美容分野との関連性が大きく、近年では美容メインでなくても、自由診療としてアンチエイジングなどを導入するクリニックも多数みられます。

美容分野に力を入れているクリニックでは、医師が開発に関わったドクターズコスメの販売などを手掛ける例もあります。皮膚科医の医業の延長線上で収入を得られる点は、開業後の経営の助けになることもあります。

デメリット①開業資金が高額になる可能性

開業資金がどの程度かかるかは、使用する医療機器と診療に必要な部屋の広さ、内装の重要性が関わってきます。

医療機器に関して、皮膚科は保険診療部分でいえば、必要となる機器が他の診療科に比べて少ない傾向にあります。

それに対して、美容分野が主となる自由診療部分では検査や処置のために多くの医療機器が必要となります。

医療機器は日々技術革新が進んでおり、競合に対抗して患者を集めたり評判アップにつなげたりするには高機能な機器の導入が効果的なケースもあるため、経営計画とコストのバランスをとりつつ検討が必要です。

次に部屋の広さから開業資金を考えた時、皮膚科は手術室が必要になるような他診療科と比べると、そこまで広さが必要な診療科ではありません。

ただし、内装費に関しては注意が必要です。近年建築分野の人手不足により、内装費の高騰が続いています。2010年頃と比較すると2~3倍近くまで値上がりしている状態です。

子どもの受診が多く見込まれる地域では、待ち時間に患者が気を紛らわせることができるよう内装や設備を工夫するなど、経営戦略によって特別な内装を採用することもあるでしょう。

内装費のコストを最小限に抑えるため、最近では承継開業を検討する先生も多くいらっしゃいます。すでにある設備を生かして、必要な部分だけ改装することができるため、開業資金で悩む先生におすすめです。

デメリット②収入維持のために診療しなければならない患者数が多い傾向

皮膚科は医師の診察や問診で診断し、投薬する流れが多く、検査や処置が少ない傾向にあります。そのため、他診療科に比べて患者一人当たりの診療報酬の点数が低くなりやすいです。

より多くの収入を得るには、それだけ多くの患者に対応する必要があるということです。高収入をかなえ、維持しようとすると激務をこなさなくてはならなくなる可能性もあります。

デメリット③開業率が高く、競合が多い

皮膚科は病院に勤務する医師よりもクリニックに勤務する医師の方が多い診療科です。競合が多い中で経営を軌道に乗せていくためには、経営方針でしっかり差別化を図ることが重要です。

経営方針に大きく影響してくるのは、開業する立地です。同じ診療圏にどのような系統の競合がどれくらいあるかによって、経営方針の方向性は自然と限られてきます。

また、メインとなる患者層も深く関係します。駅の近くであれば現役世代、学校が多い地域であれば子どもや学生など、メインとなる患者層は変わってきます。それに合わせた診療時間の計画も必要です。

患者層は集めるスタッフや設備にも関わってきます。患者とスタッフ両方の負担を軽くするため、予約管理システムなどの工夫は必須です。自由診療を導入する場合、割引施術など自院の設備を生かした福利厚生で就職希望の応募を増やすクリニックもあるようです。

まとめ

皮膚科は開業率が高い診療科で、開業に成功すれば勤務医時代に比べて大幅な収入アップが見込めます。勤務時間の融通が利きやすく、開業によってQOL向上を実現しやすいといえます。

ただ、開業率が高いということは競争相手が多いという事実の裏返しでもあります。患者に選ばれるクリニックにするため、明確な経営計画のもとに診療方針や人員配置などを決めていく必要があります。

立地やターゲットにする患者層など、経営に関わる状況によっては高いハードルを越えなければなりません。

開業するかどうか悩んでいる皮膚科医の方は、開業のメリット・デメリットを踏まえたうえで、将来的なキャリアの方向性を見直してみてはいかがでしょうか。

 
<脚注>
損益差額には、別途建物や設備の改修など業務に関わる内部資金が含まれるケースもありますが、記事中では便宜上「損益差額=年収」として扱っています。
 

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