専門医取得を目指す医師が直面する課題、不安とは?―医師2,090人のアンケート調査より―

医師にとって、自身の専門領域に関する知識や技術を証明する役割を持つ「専門医資格」。医師の多くが取得・維持する流れが一般的となっており、若手医師の多くはまず専門医、数年後にサブスペシャリティ、キャリアアップを目指すなら認定医や指導医など、段階的に資格取得を検討していくケースが多くなっています。

しかし専門医取得には、種別ごとに試験や症例経験、学会発表などの必要要件を満たすことが求められ、日々の激務と両立して取得を目指すことは医師に大きな負担がかかってしまうという側面もあります。

専門医取得を目指す医師は、どんな点に困難や課題、不安を感じているのでしょうか。会員医師に実施したアンケート調査の結果から明らかにしていきます。(回答者の属性)。

 

専門医取得を目指す医師が直面する課題、不安とは?―医師2,090人のアンケート調査より―

定着している専門医取得、20代医師の8割超が「今後取得予定」

今回の調査では、専門医資格を「取得して現在も所持している」医師が78.1%を占め、専門医資格の取得・所持が医師の間で定着している現状がうかがえました。

年代別にみてみると、29歳以下では「これまで所持したことはないが、今後取得しようと考えている」と回答した医師が82.4%を占めており、専門医資格は若手医師にとって「取得前提の資格」ととらえられていることが分かります。

【年代別】専門医資格の取得経験と現在の有無
年代 専門医資格を取得して現在も所持している 過去に専門医資格を取得したが、現在は所持していない これまで所持したことはないが、今後取得しようと考えている これまで所持したことはなく、今後も取得は考えていない
29歳以下

2.9%

0.0%

82.4%

14.7%

30代

75.1%

0.8%

14.3%

9.8%

40代

86.6%

0.9%

4.1%

8.4%

50代

83.8%

4.0%

0.5%

11.6%

60代

79.0%

8.5%

0.4%

12.1%

70代以上

62.5%

21.9%

0.0%

15.6%

これから専門医を目指す医師が抱える不安とハードル

専門医資格の取得を目指す医師は、その道のりにどのような不安や課題を感じているのでしょうか。

試験や勤務条件、症例確保…専門医取得に至るまでの壁

最も大きなハードルとして挙げられたのは「専門医試験」(40.2%)、次いで「研修病院での勤務条件」(35.1%)、「必要な症例の取得」(33.9%)でした。資格取得に向けた学術的な要件と、それを満たすための労働環境の両方に、大きな負担を感じていることがわかります。

専門医の取得に関して、困難やハードルになりそうと思っていること(複数回答) 回答数 割合
専門医試験 70

40.2%

研修病院での勤務条件 61

35.1%

必要な症例の取得 59

33.9%

論文執筆 46

26.4%

学会や専門医機構での単位取得 45

25.9%

研修病院(プログラム)の選定 33

19.0%

研修病院での指導体制 30

17.2%

女性医師の多くが「出産・育児と資格の両立に苦労」

1章で紹介した年代別の専門医資格の取得状況から見ると、「専門医資格を取得・所持している」医師が一気に増加するのは29歳以下(2.9%)から30代(75.1%)にかけての間となっています。

一般に初期研修を終えて取得に必要な実務経験や症例を集め終える時期が30代ごろにあたるためと考えられますが、この年代は大きなライフステージの変化を迎える世代でもあります。

特に出産で一定期間業務から離れざるを得ず、産後復帰したとしても時短勤務など制限のある状態で働く必要に迫られることの多い女性医師からは、専門医取得と出産・育児との両立が困難であることを指摘する声が多数上がっていました。

試験は合格しましたが、育休によって休職期間があり、専門医を取得できてないです。もう少し出産や育児に対して配慮があってほしいと思います (30代女性、麻酔科)

育児をしながら残業、家庭のことをこなし子供の寝かしつけが終了するともう体力は残っていない。こんな中で専門医試験の勉強ができるだろうか。自分のためだから寝る間も惜しんでしろよと言われればそれまでであるが、子供がいる女医の負担はとても大きいように思える (30代女性、循環器内科)

妊娠出産で、一度中断したり、時短で取れるのか。内視鏡専門医だと、フルタイムで6ヶ月研修必須となっており、子持ち女性への配慮が全くない。 (30代女性、産婦人科)

産休育休を3回取ってる間に、必要な講習の項目が変わっており、再度高額な講習を泊まりで受講しなければならなかった。専門医試験前すら1度も夫が子を預かってくれなかった (30代女性、呼吸器外科)

集中治療専門医の取得に際し、症例をできるだけ集めておき、産休前に申請。育休中に受験しました。子育てと専門医試験勉強が中々ハードでした…。 (30代女性、救命救急)

妊娠、出産後にメジャー内科の専門医を取得できている女性医師が少ない。専門医取得を諦めている女医が多い印象(女性にはかなりハードルの高い専門医制度になってしまった)。専門医試験のレポートをパソコンで作成していたら、赤ちゃんに邪魔され日中かけなかったため、手書きに変更した。辛かった。子供が寝ている朝5時、夜中しか勉強できず、子育てしながらの勉強は非常に辛く、妊娠前に取得できていればよかったと思った (40代女性、その他診療科)

女性医師の専門医取得率は男性医師に比べて約10%低くなっていることも、上記の状況が影響していると考えられます。

【男女別】専門医資格の取得経験と現在の有無
性別 専門医資格を取得して現在も所持している 過去に専門医資格を取得したが、現在は所持していない これまで所持したことはないが、今後取得しようと考えている これまで所持したことはなく、今後も取得は考えていない
男性

81.3%

3.6%

6.1%

9.0%

女性

70.8%

2.1%

13.6%

13.6%

専門医制度が、キャリア形成期に出産・育児期を迎えることの多い女性医師にとって大きな負担となり、キャリア継続の障壁になりかねない現状が浮き彫りになっています。

医局中心の体制、学会発表に負担感も

そのほか、専門医取得を目指す医師が不安や課題に感じていることについて寄せられた自由回答は下記の通りです。

新専門医制度やシステムへの不満

    • 専門医を餌に過重労働の施設に勤務するのは酷 (40代男性、健診・人間ドック)
    • 診療科によって専門医の取りやすさに差がありすぎる (30代女性、小児科)
    • 一定の年数努めないと試験を受けられない点 (20代女性、放射線科)

医局中心の体制とキャリアの不自由さ

    • 大学病院周辺の関連病院でしか取得できない医局体制中心の制度が不満 (30代男性、泌尿器科)
    • 医局からの派遣先である医療機関ではないと研修プログラムに入りにくいのではないか (30代男性、心臓血管外科)
    • 科長の指示でローテーション先が決まること。希望を聞いている姿勢を見せつつ本音は従ってほしいというのが見え見えで拒否しにくいところ (30代女性、リハビリテーション)

試験や学会発表など取得要件への不安、負担感

    • 専門医試験が受かるかどうか心配 (20代男性、救命救急)
    • 論文発表できるか不安 (30代男性、放射線科)
    • 取得までの必要年数が長い (40代女性、皮膚科)

まとめ

今回のアンケート調査では、専門医取得がキャリア形成の通過点として扱われる現状がある中で、特に女性医師を始めとした若手医師が試験や取得要件を満たすことに困難や不安を抱えている現状が見えてきました。

医師としてどのようなキャリアを歩んでいきたいのか、また専門領域や希望する働き方によって、専門医取得の重要性は異なってきます。

「今後目指すキャリアのために専門医取得を目指したい」
「でも今の勤務先で子育てと資格取得の両立は難しい…」

そのように悩んでいる医師の方々は、まずは今どのような働き方を選びたいか考えてみてはいかがでしょうか。

現状の勤務を続けながら子育てしていくことを優先し専門医資格の取得時期を見直したり、転科も含めて新たな勤務先への転職を検討したりといったさまざまな選択肢が考えられます。

ご自身が思い描くキャリアを実現するためにどんな選択肢があるのか、各診療科や地域の医療機関に詳しい専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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【参考】回答者の属性

調査概要

調査内容 専門医の取得状況とキャリアへの影響に関する医師アンケート
調査対象者 株式会社メディウェルに登録している医師会員
調査時期 2025年4月20~29日
有効回答数 2,090件

 

年齢

年齢 回答数 割合
29歳以下 68

3.3%

30代 622

29.8%

40代 634

30.3%

50代 421

20.1%

60代 281

13.4%

70歳以上 64

3.1%

 

性別

性別 回答数 割合
男性 1,463

70.0%

女性 627

30.0%

 

診療科

現在の主たる診療科 回答数 割合
一般内科 213

10.2%

総合診療科 40

1.9%

消化器内科 118

5.6%

呼吸器内科 54

2.6%

循環器内科 85

4.1%

腎臓内科 29

1.4%

神経内科 48

2.3%

内分泌・糖尿病・代謝内科 53

2.5%

血液内科 26

1.2%

老年内科 23

1.1%

人工透析科 10

0.5%

リウマチ科 16

0.8%

一般外科 49

2.3%

消化器外科 79

3.8%

呼吸器外科 14

0.7%

心臓血管外科 15

0.7%

脳神経外科 40

1.9%

乳腺外科 14

0.7%

泌尿器科 50

2.4%

整形外科 124

5.9%

形成外科 44

2.1%

現在の主たる診療科 回答数 割合
美容外科 5

0.2%

小児外科 4

0.2%

眼科 62

3.0%

皮膚科 65

3.1%

耳鼻咽喉科 52

2.5%

精神科 174

8.3%

心療内科 5

0.2%

放射線科 54

2.6%

小児科 72

3.4%

産婦人科 79

3.8%

婦人科 19

0.9%

麻酔科 104

5.0%

救命救急 49

2.3%

ペインクリニック 6

0.3%

緩和ケア 13

0.6%

美容 20

1.0%

病理診断科 17

0.8%

在宅診療 17

0.8%

健診・人間ドック 40

1.9%

リハビリテーション 30

1.4%

上記以外 64

3.1%

 

地域

地域区分 回答数 割合
北海道・東北 176

8.4%

関東 899

43.0%

中部 273

13.1%

近畿 407

19.5%

中国・四国 123

5.9%

九州・沖縄 208

10.0%

不明・海外 4

0.2%

 

主たる勤務先

現在の主たる勤務先 回答数 割合
病院(大学病院以外) 1,110

53.1%

大学病院 241

11.5%

クリニック(勤務医) 468

22.4%

クリニック(開業医) 112

5.4%

一般企業 68

3.3%

介護施設 15

0.7%

休職中 39

1.9%

その他 37

1.8%

 

 

 

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