医師にとって「転科」は自身の専門とする診療科を変えることを意味します。一つの診療科でも研鑽して一人前として認められるためには何年もかかるという環境の中、専門の診療科を変えることは医師にとって大きなキャリアチェンジといえます。
この「転科」について医師は実際のところ、どのように考えているのでしょうか?医師1,683名の診療科アンケート結果をもとに見ていきます。

目次
「転科したい」と思ったことのある医師はどれぐらいいるのか?
医師の中で実際に「転科したい」と思ったことのある人はどれぐらいいるのでしょうか?結果は下図のようになりました。
「過去・現在を含め転科したいと思ったことはない」が59%と最も多く、「過去に転科したいと思ったことがある」が31%、「現在転科したいと思っている」は10%という結果でした。現在・過去を含めて「転科したい」と思ったことのある医師は全体の4割程度となっています。
診療科によって転科に対する希望はどう違ってくるのか?
「転科したい」と思う医師の割合は、診療科によってどのように異なっているのでしょうか?回答数が20件以上集まった診療科で割合を比較したところ、結果は下表のようになりました。
「過去・現在を含め転科したいと思ったことはない」という回答の割合が最も多かったのが眼科(73%)、次いで神経内科(69%)で多くなっています。「転科したい」とあまり思わないということは、これらの診療科では現在の診療科に満足している割合が高いのかもしれません。
一方、健診・人間ドック(42%)・救命救急(43%)では「転科したいと思ったことはない」医師の割合が少なくなっています。ただし、それらの診療科では過去に実際に転科した医師の回答の割合が多い可能性も考えられます。
そこで、「現在転科したいと思っている」医師に限定して比較すると、麻酔科・形成外科が15%とやや多いものの、全診療科を通して2割未満に留まっていることがわかります。
転科するなら何科がいい?
「現在転科したい」と考えている医師の割合は多くはないものの、もし転科するとすれば何科が良いのでしょうか?回答を募ったところ、実は現在の診療科をそのまま答える医師が一定数いました。そこで下表では、自科(現在の診療科)を含む場合と自科以外の場合、それぞれの回答結果を併記しています(現診療科で20件以上の回答があった診療科を記載)。
自科を含む・含まないのいずれの場合も診療科別の比較としてはほぼ同様の状況となっています。自科を含む結果で見ると、一般内科が214件で最も多く、健診・人間ドックが104件で次いで多い結果となっています。
しかし、現診療科からの増減を見ていくと、健診・人間ドック、救命救急、リハビリテーション、眼科を除く全ての診療科で、現診療科よりも転科後(もしするとしたら)の診療科の医師数が減っていることがわかります。
これらの医師はどの診療科を希望したのでしょうか?実はここに記載されていない診療科(現診療科で回答数20件未満)で人気の多かった診療科がありました。
転科先として医師に人気の診療科ランキング
改めて、転科先として人気の診療科を「転科先として希望した診療科の回答数(自科含む)」から「現在の診療科の医師数」を引いた数で比較しランキング化したところ、トップ10は以下のようになりました。
「美容」(美容皮膚領域)が最も人気という結果となりました。同様に「美容外科」も3番目に人気となっており、美容領域での人気が目立ちます。
他には、在宅診療(2位)、健診・人間ドック(4位)、緩和ケア(5位)、救命救急(6位)、リハビリテーション(7位)、眼科(8位)、老人内科(9位)、心療内科(10位)が転科先で人気の高い診療科となっています。
なぜこれらの診療科の人気が高いのでしょうか?上記の診療科を選んだ理由について自由回答(一部)を紹介します。
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- 卒業時は人命を救わない診療科は興味がなかったが、本来医療は人を幸福する物である (60代男性・脳神経外科)
- 今の仕事の知識が生かせるから (40代男性・皮膚科)
- 9時―5時でオンコールがない。 (30代男性・腎臓内科)
- いまの技術が活かせるかもしれないから。 (30代男性・眼科)
- QOLが高そうだから (30代女性・皮膚科)
- 収入で夢がある (29歳以下男性・整形外科)
- 人の死に目に遭いにくい (40代女性・放射線科)
- 転科はしないが、自分の皮膚を綺麗にできたら楽しそうだから。 (30代女性・乳腺外科)
- 当直業務のない点 (30代男性・麻酔科)
- 給料が良い (30代男性・病理診断科)
- 手術中、命を救えなかった例が今迄1例しかなく、常に、元の状態に蘇生する仕事をしていて、やはり医というものは、死を迎える患者さんに寄りそう時に、最も成長する、と思うので。 (50代男性・麻酔科)
- 今後需要が増えそう (50代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 患者の生活視点を大切にした総合診療をやりたい (40代男性・一般内科)
- 家庭生活に起因する疾病が多いから (70歳以上男性・健診・人間ドック)
- 看取りをやりたいから (29歳以下男性・整形外科)
- 病院の外での診療に魅力を感じる (29歳以下女性・精神科)
- 患者の生活環境を考慮した診療が必要とされるため。 (40代男性・呼吸器外科)
- 患者とゆっくり向き合えるかと思うから。今は診察する機械のよう。 (40代女性・乳腺外科)
- 働きやすさ、将来性 (30代女性・小児科)
- 直接患者さんに関わりたい (50代男性・病理診断科)
- 自由診療に様々な可能性を感じ興味があるため (40代男性・一般内科)
- 手術が楽しそうだから (40代女性・在宅診療)
- 収入が大きく,都心部では需要が大きい (30代男性・整形外科)
- センスが問われそうでやりがいがあるかもしれないと思う (40代男性・脳神経外科)
- 華があると感じる。自分の分野とは一番離れていると感じるからどんなところか興味がある。 (30代男性・小児科)
- 自費こそ医療の原点である。極論ではあるが、国民皆保険など保険診療が医療をゆがめた可能性がある。 (60代男性・婦人科)
- 面白そうだから・金銭的に恵まれている (30代男性・呼吸器外科)
- 報酬の高さと拘束時間の少なさ (40代男性・小児科)
- きれいにしてみたい (60代男性・リハビリテーション)
- 細かい作業をしたいと思ったから。 (40代男性・麻酔科)
- 予防医学への興味 (60代男性・循環器内科)
- 乳癌検診など今までのスキルを活用できるから (40代男性・乳腺外科)
- QOLが確保出来そうだから (50代男性・一般内科)
- ストレスが少なく高齢でも働けそう。 (60代男性・婦人科)
- 非常勤で勤めてみて興味深い科であったから (40代女性・呼吸器内科)
- 健診結果をきちんと伝えることで、病気を防げると思う。 (30代女性・皮膚科)
- 家事子育てとの両立が可能かもしれない点 (30代女性・一般内科)
- 肉体的な負担がすくない (40代男性・一般内科)
- 緊急がない (40代男性・消化器外科)
- 予防医学が重要だから (50代男性・血液内科)
- 終末期医療は必須。 (50代男性・形成外科)
- 看取りの医療に必要で、自分に欠けていて、正面から取り組みたい。 (30代女性・一般内科)
- 研修した時に非常にやりがいを感じた。今後ニーズが高まると思うので (30代女性・婦人科)
- 人生の終焉を担う科だから (40代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 体力的に長時間の手術が大変になってきたことと、がん終末期をみてきたことで入りやすいと考えている。 (50代男性・消化器外科)
- 今までの経験が生かせそうなので (40代男性・血液内科)
- 関連領域なので (50代男性・精神科)
- 癌やその他疾患の末期の方を見ることが多いので必要性をより身近に感じる (30代女性・呼吸器内科)
- 困っている人が多いため (40代女性・泌尿器科)
- 消化器の癌と密接だから (50代男性・消化器内科)
- 今も思っていることですが、全身状態を管理する研鑽を積む必要性があり、その意味では、救急科の経験は必要と考えるため (30代男性・神経内科)
- やりがいとオフの時間が確保されていること (30代男性・神経内科)
- 目の前の人の救命が可能になるから (40代女性・精神科)
- 最も医師らしい仕事という印象 (50代男性・呼吸器内科)
- 全身の急性期疾患を診られるから (50代男性・一般内科)
- 結果がすぐ出る (60代男性・整形外科)
- ダイレクトに命を救いたいと思ったから。 (50代男性・精神科)
- 救急科は特に画像検査が過多な印象。 そこまで必要なのかを実際の診療の場で考えてみたい。 (30代男性・放射線科)
- 自分の能力や技量を発揮できる。 (40代女性・循環器内科)
- オンオフがはっきりしている (40代女性・眼科)
- 訴訟のリスクが少なく、拘束時間が短い。緊急がない (50代男性・整形外科)
- 超高齢化社会でニーズが大きく高まるが、薬物治療や外科治療では対応困難な分野で専門性が高いため。 (50代男性・人工透析科)
- 知識がいかせるから (40代男性・整形外科)
- 患者さんが基本的に良くなるというポジティブな診療科だから。 (50代女性・一般内科)
- 高齢化社会になり、いろんな病態のリハビリの需要が高まっている。それにリハビリ科は人間の解剖、機能を熟知していないと始まらない。医師になった時は地味で興味なかったが、時代とともに重要度が増してきている。 (60代男性・健診・人間ドック)
- 少なくとも手術に関しての訴訟がないであろうから (40代男性・整形外科)
- 良くなる様子が見られる (30代女性・一般内科)
- 需要が高い、生死にかかわらない (30代女性・産業医)
- 関連がある (50代男性・神経内科)
- 専門性が高いうえに、体力が求められない。晩年はCLなどのバイトが豊富 (40代女性・消化器内科)
- 普通に開業しても儲けがずば抜けて大きい (40代男性・消化器内科)
- 綺麗で儲かりそう (50代男性・一般内科)
- 緊急性のある疾患がなさそう (30代女性・耳鼻咽喉科)
- 白内障の手術やレーシックなどに興味があるため (40代女性・皮膚科)
- 女性医師でも働きやすそうなので (40代女性・皮膚科)
- 時間外勤務がなさそうだから (50代男性・一般内科)
- 開業のしやすさ (30代男性・精神科)
- これからのニーズが高いと思われる (40代男性・小児科)
- 元々興味があった医療だから (40代女性・健診・人間ドック)
- 現在老人を多く診察していることから転科しやすいと思ったため。 (60代男性・一般内科)
- 今後ますます必要とされる。 (60代男性・消化器内科)
- 人生の最終段階に立ち会えるから (50代男性・精神科)
- 高齢化社会で看取りに興味があるから。 (40代男性・循環器内科)
- 高齢者が多いから (60代男性・一般内科)
- 業務内容が近いので (30代男性・精神科)
- 開業に役立つ (50代男性・放射線科)
- 年老いてからも続けられる (50代男性・麻酔科)
- 精神科と内科を経験できるから (40代女性・一般内科)
- 子どもの心に興味があるから。 (50代男性・在宅診療)
- 生きていく上での、苦痛に取りくむ科だと思うから (50代男性・麻酔科)
- 内科的な疾患を除外した上で、メンタル科の診療が出来るので。 (50代男性・一般内科)
美容
在宅診療
美容外科
健診・人間ドック
緩和ケア
救命救急
リハビリテーション
眼科
老人内科
心療内科
医師が転科を考える理由で多い5パターン
ここまで、実際に転科したかどうかに関わらず医師に人気の転科先を見てきましたが、実際に転科した医師はどのような理由から転科することを選んだのでしょうか?医師のキャリアチェンジのエピソードや転職事例を見ていくと、下記の5つのパターンのいずれかに当てはまるケースが多くなっています。
1.今の診療科が自分に合っていないと考えた
卒業後8年くらい経った時期に、私はちょっとした壁にぶちあたりました。「俺はこのままで大丈夫なのだろうか」「このままでは、まともな泌尿器科医になれないような気がする」「才能がないんじゃないだろうか」「何か特殊なサブスペシャリティも必要だろうか」……など、たいていの人が1度は考えることです。
まずは今後の進路について作戦を練るべく、自分が今していること、できることを振り返ってみました。泌尿器科医が2人いる地方の総合病院の二番手、というのが、そのころの私の定位置であったので、「外来診療」「病棟業務」「救急当直」「可能な範囲で研究」「手術」が私の日常の業務です。そして思いました。「この中では救急外来が一番楽しい。……と、いうことは、俺って救急の才能あるんじゃないだろうか?」。
大いなる勘違いです。なぜ、あれっぽっちの経験と知識と技術でそう思えたのか、今となってはよくわかりません。おそらくバカだったのでしょう。
しかし、このころから「いっそのこと泌尿器科を辞めて救急の医師になろうか?」と漠然と思い始めました。
2.新たな領域に興味が湧いた
内科医として10年働いてきました。
30代も半ばを過ぎ、医者としての将来を考え、より興味があり適性もあると思われる美容皮膚科の世界を非常勤で勤務し覗いてみたのですが、大変楽しく満足できる内容でした。
今後は、美容皮膚科医を一生の仕事としてキャリアを積みたいと考え、常勤で働くことを希望しました。
3.激務や体力・体調面の事情
外科医としてずっと勤務していましたが、体力的にも厳しくなってきて、このまま続けていくことに限界を感じていました。そこに上司との軋轢や、勤務先で人事の希望が通らないことなどが重なって、転職を決意しました。
転科するにあたっては、将来性もある在宅医療に携わりたいと考えました。
4.家庭的な事情
家族の体調がすぐれず、地元に戻ることになったため。また、前の病院では、脳神経外科と救急科センター長を兼任し、当直・オンコールを含めるとほぼ毎日病院に出勤している状態で、50代半ばになったこともあり、勤務内容を少し緩やかなものにシフトしていきたいとも考えました。
5.開業・継承を見据えて
親族が経営する眼科医院の継承のため、眼科への転科を希望しました。
整形外科医としての一定のキャリアを積み、今後更に治療の幅を拡げ、開業も視野に入れながら何でもできる整形外科医を目指しているためです。
さらに、このような理由に加えて、知人のすすめがあったり、周囲の言葉が後押しとなって最終的に転科することを決めていることもあります。
あるとき、40代くらいの働きざかりの患者さんが入院されて、私が手術をしました。その方は歩いて入院されたんですが、術後に寝たきりになってしまったんです。そのとき、当時の院長である若月俊一先生が、私にこう仰いました。
「この患者を手術したのは君か。まったく動かないではないか。君はどうするつもりなんだ。君が手術したのだから、この患者の人生はすべて君が責任を持つんだな」
私も若かったものですから、頭の中が真っ白になり「そんなこと言ったって、わざとやったんじゃない。しょうがなかったんだ」って自己弁護的な発想をしてしまいました。でも、若月先生としては「手術をした医師がすべての責任を持って当たり前」ということを教えたかったのでしょう。私にそれくらいの覚悟があるのかを問いたかったのだと思います。
若月先生の言葉は、私がその後、一気にリハビリテーションの道へ進むきっかけになりました。佐久総合病院に行き、病気ばかり診る「臓器別専門家」に対して、生活も診る「地域医療」に触れたこと。これがなければ、リハに進むという決断はしませんでした。
臓器別専門家は、完全に治る病気を診る分にはいいですけど、治らない病気や障害を抱えた人たちは問題が山積みです。この問題に対応するのがリハビリだと考えたわけです。
「転科したい」と思ったらどうすればいい?医師が転科する方法とは?
それでは医師が実際に転科しようと思った場合は、どのような手順・方法で進めていくと良いのでしょうか?上記に紹介しているエピソードや転職事例等も参考になるかと思いますが、その中から以下で特に重要と思われるポイントをまとめました。
1.自分に合った診療科・働き方を決める
特に「今の診療科で働き続けることが難しい」という理由から転科を考えている場合、今後どういう診療科を選べば良いかが定まっていないという場合もあります。その場合は各診療科の魅力や大変さ、また未経験での転職のしやすさ等の情報を収集しながら自分に合った診療科を決めることが第一歩になります。
2.転科でも転職できる受け入れ先を探す
医師の求人は全国で数多く見つかりますが、大半は即戦力となる経験者の採用を期待しています。そのため、転科や未経験でも勤務できる受け入れ先を探すというのが一つポイントになってきます。もともと転科や未経験での採用を考えていなかった医療機関であっても、個別に相談することで勤務できるケースもあります。
3.専門医などの資格取得を目指す場合は受け入れ先で取得可能かを確認する
転科後のキャリアの目標として専門医や指定医などの資格の取得を目指す医師も多いです。その場合、転職先の施設で資格取得ができるのかどうか、施設認定だけでなく、症例数や指導体制、その施設で過去に取得した医師の有無などを含めて確認しておきましょう。
4.これまでの経験を活かす
転科をする場合、全くの未経験だと受け入れ先が限られたり給与が下がったりすることもあります。例えば内科から精神科に転科する場合に身体合併症を診られる、他科連携時の橋渡し役を担えるなど、これまでの経験を活かせる点をアピールすることによって勤務条件等も交渉しやすくなります。
5.転職後は初心に戻って謙虚な姿勢で接する
言うまでもないですが、転職後は初心に戻って謙虚な姿勢で接するようにしましょう。場合によっては指導してくれる医師が年下ということもありますが、指導を受ける立場である以上は年齢や医師年数に関係なく敬意を払うことが重要です。
転科する場合は通常の転職に比べて、受け入れ医療機関への確認事項や交渉のポイントも多くなります。転科先探しでお困りでしたらメディウェルのコンサルタントの活用もご検討ください。