医師が目標のキャリアを実現しようと考えた時、転職は有力な選択肢の一つです。
メディウェルが会員医師1,205人に聞いたアンケート調査によると、医師の約7割が転職を経験しています。
とはいえ、転職はその後の人生を左右する大きなターニングポイントとなります。簡単に何度も繰り返せるものではなく、できるだけ後悔のない転職をかなえたいと考える医師も多いのではないでしょうか。
後悔しない転職を実現するためにやるべきことや、転職経験医師の体験談について、アンケート結果をもとにまとめました(回答者の属性)。
※本調査での「転職」には、研修による施設異動や医局人事による異動、開業は含みません。

目次
- 1. 「転職に満足している」医師は9割
- 2. 転職を経験した医師が後悔したポイントとは?
- 2-1. 勤務条件や経営体制など、情報収集が足りなかった
- 2-2. 納得いく条件交渉ができなかった
- 2-3. スキルアップしておけばよかった
- 2-4. 紹介会社や知人を頼ればよかった
- 2-5. その他
- 3. 医師が後悔しない転職をかなえる4つのコツ
- 3-1. 情報収集を徹底する―チェックポイントとおすすめの調べ方
- 3-2. 見学やトライアル勤務で実態を知る
- 3-3. 自己分析と希望条件の整理
- 3-4. 契約条件を書面で確認する
- 4. 転職経験医師からのアドバイス
- 5. まとめ
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「転職に満足している」医師は9割
実は、転職で「うまくいかなかった」と感じたり、不満を感じたりしている医師は少ない傾向にあります。
アンケートで転職経験があると回答した医師873人に対し、前回の転職活動についてうまく進められたかたずねたところ、9割超の医師がスムーズに転職活動できたと感じていることがわかりました。
前回の転職活動を「うまく進められた」と感じている医師は52.3%、「まずまずうまく進められた」と感じている医師は42.3%でした。
一方で、「あまりうまくいかなかった」と感じている医師は4.5%、「うまくいかなかった」と感じている医師は0.9%という結果で、わずかですが転職活動に後悔を抱えている医師もいました。
また、前回の転職活動の結果についても「満足している」が49.8%、「どちらかといえば満足している」が41.4%で、9割の医師が満足しているという状況です。
これだけ多くの医師が転職に満足感を得ている背景には、医師にとって転職というキャリア選択が大きな変化であり、慎重に進めている医師が多いことがうかがえます。
そんな中で、転職活動に不満を感じた医師も1割弱いました。医師が転職活動でより満足いく結果を得るためには、どのような点に気を付けるべきなのでしょうか?
転職を経験した医師が後悔したポイントとは?
転職経験のある医師が「やっておけば良かった」と後悔していることについてアンケート調査し、内容ごとに以下にまとめました。
〇勤務条件や経営体制など、情報収集が足りなかった
最も多かったのは、「事前にしっかり情報収集するべきだった」という回答です。医師が「調べたほうが良かった」と感じた情報の内容ごとに、寄せられた声をご紹介します。
勤務条件の確認
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- 給料は事前に必ず事務方に確認すること (50代女性、麻酔科)
- 福利厚生をちゃんと見ておけばよかった (30代女性、消化器内科)
- 退職金や勤務可能年齢の確認 (40代男性、整形外科)
- 給与が年俸制だから一定金額が確保されると思っていたら、年俸の一部にボーナス相当分が含まれていることが契約書に記載されていた。契約書にこぎつける前にはっきりさせておかなかった点(ボーナス分減らされることが多い) (50代男性、健診・人間ドック)
- 役職の就任時期について、具体的に話し合っておくこと。就任するかしないかで、給与が変わります (60代女性、精神科)
- 回復期リハビリ病棟に在籍しての転職活動の際には、必ず自分の担当する病棟の入院基本料を確認し、その入院基本料の理由も確認すること。あと、入院基本料の医師の条件は、回復期リハビリ病棟専従医ではなく、専任医であることを、しっかり覚えておくこと (50代男性、リハビリテーション)
- 入職後次から次へと色々頼まれて、入職時の約束と違ったので、約束は守って欲しい (60代男性、老年内科)
経営状況の把握
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- 転職先の財務状態をしっかり研究しておけば良かった (50代男性、一般内科)
- 転職先の経営状況を知ること (30代男性、一般内科)
- 専属産業医を募集する企業はそれなりの大企業なので、面接前にその企業の状態を調べておくべきでした (60代女性、一般内科)
同僚の待遇や人間関係を調べる
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- その病院の医師の給与水準の把握 (60代男性、リハビリテーション)
- 次の職場の医師の年齢構成の把握 (50代男性、一般内科)
- 上層部だけでなく、同じ部署のスタッフが自分に対して何を望んでいるのかを、事前に聞いておく (40代女性、麻酔科)
- 転職先の人間関係や風通し、地域からの評判の下調べ (40代男性、小児科)
- 同僚となる医師をもっとよく見ておけばよかった (30代男性、一般内科)
- 自分以外の勤務医師の現在の処遇について、情報を得ておけばよかった (50代男性、整形外科)
- 院長の人柄をしっかりと見極めること (60代男性、一般内科)
〇納得いく条件交渉ができなかった
転職活動中の条件交渉についても、多くの医師が後悔を語っています。
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- 条件の交渉をもう少しすればより良い結果が得られたかもしれない (60代女性、一般内科)
- あまり自分の技術や知識を謙遜しすぎないこと。給与や休暇などの交渉は、相手に飲み込まれず自分で交渉をすること (50代女性、一般内科)
- 給料交渉しっかりする、契約書確認 (40代男性、人工透析科)
- もう少し賃金交渉をすればよかった (40代女性、皮膚科)
- 交通費の交渉 (50代男性、消化器内科)
- 高い年収提示 (40代男性、整形外科)
- 給料の交渉は遠慮しなければよかった (40代男性、老年内科)
- 細かい条件まで詰めること (40代男性、消化器外科)
- 条件で妥協しない (40代男性、在宅診療)
〇スキルアップしておけばよかった
転職のPRポイントとなるスキルや資格を身に着けておけばよかった、という声も聞かれました。
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- 年齢的に電子カルテ使用に乗り遅れた事 (70歳以上男性、老年内科)
- 英会話。どこでもスキルが求められる (30代女性、呼吸器内科)
- 専門医をとっていなかったこと (60代男性、消化器内科)
- 内科分野の勉強 (40代男性、麻酔科)
- レセプトの勉強をしておけばよかった (40代男性、消化器内科)
- 指導医を取るための活動 (30代男性、消化器内科)
- 産業医の更新 (70歳以上男性、一般内科)
- 自分の得意分野を作ること (50代女性、放射線科)
〇紹介会社や知人を頼ればよかった
良い求人の紹介や転職先とのやりとりに関して、一人でやろうとせず第三者を頼るべきだったという意見もありました。
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- 友人の紹介で入職したが、その後突然契約解除されてしまい、紹介会社を入れておけば良かったと後悔した (60代女性、一般内科)
- 転職エージェントの利用。一人で進めるのは大変 (30代男性、脳神経外科)
- 複数の紹介会社での比較 (50代男性、一般内科)
- 知り合いに声をかける (30代男性、心療内科)
- 周りへの根回し (50代男性、人工透析科)
- 知り合いのツテなども大事な世界なので、そういうのも頼りにしておけばよかったと思いました (30代女性、麻酔科)
- 転職経験者の話をきく (40代男性、リウマチ科)
〇その他
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- 上の医師に誘われていく病院は当たり外れが大きい、しかも断りにくかったりすぐ辞めづらかったりする (30代女性、内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 自分の思い、要望、希望をちゃんと伝えることで齟齬が少なくなると思います (40代男性、整形外科)
- 他人を信用しすぎない (50代男性、麻酔科)
- 自分の意思を尊重すること (70歳以上男性、小児科)
- 当該地域の大学医局との関係をよく知っておくこと (40代男性、麻酔科)
- 病院の条件もそうだが、住環境のこともしっかり調べたほうが良い (50代男性、消化器内科)
- もっと早く医局を離れてもよかったかもと感じます (40代男性、消化器内科)
- 早く紹介会社に依頼すればよかった (60代男性、一般内科)
転職活動の中で後悔を抱えたポイントとして、情報収集や条件交渉が足りず、給与などの待遇面や人間関係において転職前後でギャップが発生してしまった点を挙げる医師が多い傾向にありました。
これを踏まえて、医師が後悔しない転職活動を進めるには、どのような点に気を付けると良いのでしょうか?
医師が後悔しない転職をかなえる4つのコツ
今回のアンケート結果をもとに、医師が後悔しない転職を実現するために役立つ4つのコツについてまとめました。
〇情報収集を徹底する―チェックポイントとおすすめの調べ方
医療機関や興味を持った求人について、どのような情報を集めると良いでしょうか。メディウェルが情報収集をおすすめしているのは、次の5つです。
給与や福利厚生、勤務形態などの条件、待遇面
医師が転職を考える理由に関わる重要な部分です。希望条件と本当に合致しているか、あいまいで未確定な表現がないか確認しておきましょう。
職場の働き方や特有の文化、人間関係
転職が実現した場合、職場で長い時間を過ごすことになります。自分の考え方に合わない働き方や人間関係が後から発覚すると、いくら条件が希望にかなっていたとしても、ストレスを抱えながら働くことになりかねません。
休暇の取りやすさ、同僚との相性など自身が重視したいポイントを前もって洗い出してから情報収集に当たりましょう。
医療機関の設備や経営状況、地域の評判
医療機関の規模や備えている設備によって、携わることができる医療の内容も異なってきます。また、転職後に安心して長く働き続けられる経営状況であるかどうかも、知っておきたいところです。
地域の患者からの評判も、転職先の実態を知るうえで参考になります。
自身のスキルと求人内容のマッチング
自分の専門分野と持っている技術を生かせる求人かどうか、しっかり確認しましょう。
また、もし新しいスキルや資格が必要になる場合は、その内容や重要度についてもチェックが必要です。
今後目指すキャリアの実現性
自身が目指すキャリア像のため、さらに経験を積みたいと考えて転職する場合は、理想の働き方ができる環境・契約内容であることを確認しましょう。
入職後に経験できそうな症例数の目安や、自己研鑽の時間を確保できる働き方で双方合意できているかなど、細部にわたって注意が必要です。
また、転職を経験した医師が「調べたほうが良い」と勧める二つのポイントも以下にご紹介します。
求人が出ている理由
医療機関が求人を出すということは、人手が不足することになった理由が必ずあります。
「医療機関の運営体制に現場で不満が広がり、常勤医の退職が続いている」というような問題が見つかることもあります。前もって確認することで、転職後のトラブルを防ぐことができます。
医療機関と当該地域の医局の関係性
特に大学病院勤務医の転職の場合、転職先の医療機関と大学医局との関係性は転職後の働きやすさに大きくかかわるポイントです。
転職先の医療機関が医局から医療体制の支援をどの程度受けているのか、可能であれば調べておきましょう。
中には、直接転職先にたずねるだけでは正確な情報を得にくかったり、そもそも情報を得ることが難しかったりする場合もあります。
情報を集める手段として、次のような方法が考えられます。
転職先のことを知っていそうな知人の医師に尋ねる
同じ診療科や同地域で勤務する医師の知人がいる場合は頼ってみましょう。転職先候補でバイト経験があったり、知り合いが働いていたりして、内情を調べてもらえるケースもあります。
転職活動を進め、面談で気になる部分を確実に確認する
勤務条件などについては、転職活動の中で確認・交渉し、明確にすることができます。
ただし、自身の能力や希望条件を先方に臆せず伝えることが必要です。個人で転職活動に取り組む場合、人によっては負担を感じることもあるかもしれません。
紹介会社に登録し、コンサルタントに情報収集を依頼する
紹介会社のコンサルタントに依頼すると、プロの視点で求人内容を比較してくれたり、求人には掲載していない情報を教えてくれたりすることがあります。
また、直接やりとりせず、匿名性を保って情報収集ができるため、もしある程度転職活動が進んだ後に「やっぱりお断りしたい」と気持ちが変化することがあっても、先方と気まずくならずに済むというメリットもあります。
〇見学やトライアル勤務で実態を知る
実際に現場に立ってみると、人に聞くだけではわからない雰囲気なども肌で感じることができます。
医療機関の見学やトライアルのアルバイト勤務でチェックすべきポイントとしては、以下のような点が挙げられます。
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- 外来の運営体制、患者層
- 病棟の管理体制
- 取り扱っている症例の種類や数
- 業務で活用できる設備
- 上司や同僚の人間関係
- 休暇や福利厚生の活用状況
外来・病棟業務の回し方や設備など業務に直接かかわる部分はもちろん、職場内の人間関係や文化といった外からは見えづらい部分も見えてきます。自身の中で優先度が高い点に着目してみるといいかもしれません。
〇自己分析と希望条件の整理
満足いく転職をかなえるには、「自分がどんなキャリアを望んでいるのか」「今の職場で不足している条件、転職先に求めたい条件は何か」を明確にする必要があります。
希望条件を整理するにあたって、気を付けるべき点は以下の2つです。
希望条件に優先順位を付ける
希望条件に完全に一致した求人はほとんど見つかりません。もしあったとしても、かなり競争率が高いことが考えられます。
転職活動中にすべての条件を必須事項として主張してしまうと、医療機関との折り合いはつけにくくなります。
譲れない条件と、場合によっては譲歩が可能である条件とに分類し、さらに優先順位を付けましょう。
優先度の低い条件については医療機関側の要求に合わせる姿勢をみせることができれば、譲れない条件を受け入れてもらいやすくなります。
目指すキャリア像をしっかり定める
転職活動のきっかけとして、激務や職場の人間環境の悪さなど、「良くない状況から逃れたい」という動機を挙げる医師もいますが、その動機だけで転職活動を進めることはできれば避けるべきです。
目的が「退職」になってしまうと、転職先に望む条件が絞りこみにくくなります。
「とにかく今の職場を早く退職したい」という場合でも、「何に問題を感じているのか」「自分が働きやすいと感じる条件はどんなものか」など、冷静に現状を見直して希望条件の洗い出しにつなげていきましょう。
〇契約条件を書面で確認する
せっかく希望に合う求人を見つけて入職にこぎつけたとしても、いざ働き始めると聞いていた条件と違った、というようなことになれば、転職活動に費やした時間や労力が無駄になってしまいます。
知人の紹介を通じて転職する場合などにこういった状況が発生しがちです。
言った言わないの問題を避けるため、給与や手当、勤務時間、当直の有無といった契約条件は必ず書面化し、転職を希望する医師と転職先の医療機関双方で同じものを持っておくことが大切です。
書面に起こすべき内容は、主に次のようなものが挙げられます。
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- 雇用期間
- 勤務場所、勤務日数、休日
- 勤務内容(当直、オンコール含む)
- 給与、諸手当(支給方法、給与に含むかどうか)
特に給与や手当といった報酬関連、当直の有無などの勤務内容関連は、入職後の変更がないかどうかも含めて確認し、書面に残しておきましょう。
関連情報:医師のための雇用契約書のチェックポイント【荒木弁護士解説】
紹介会社を通して転職活動をする場合も、契約内容を書面で残すことができるか確認しましょう。
メディウェルでは、上記項目を含む詳細な「労働条件書」を作成・捺印の上、医師と医療機関双方に渡す手続きを取っています。
転職経験医師からのアドバイス
先の章で紹介した「後悔しない転職をかなえる4つのコツ」以外にも、実際に転職を経験した医師から実体験に基づくアドバイスが多数寄せられています。
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- しっかり勉強して、しっかり技術をつけて、しっかり自分を持って転職する事をお勧めします (50代女性、一般内科)
- 医局のしがらみは気にしなくて良いが、医師会とのつながりは大事にしたほうがよい (40代男性、小児科)
- 給与やキャリアアップで悩んだ際は早めに動くべき (30代男性、その他診療科)
- 我慢して病むくらいなら、さっさと転職した方がいい (40代男性、一般内科)
- 自分のスキルを磨き資格をそつなく取っておくと、就職活動に困らないと思います (50代女性、消化器内科)
- 今の現場が嫌だからというようなネガティブなことではなくやりたいことができるかという基準で選んだ方が良いと思います (40代男性、形成外科)
- 色々試してみること。1回の失敗というか面接にすら繋がらなくても気にしないこと (60代女性、一般内科)
こうしたアドバイスのほか、紹介会社を選ぶ時のポイントなど、転職をしたことがない医師向けの情報を別記事でまとめています。
関連記事:転職未経験の医師が感じる不安や疑問とは?経験者のアドバイスも — 医師1,205人へのアンケート調査より
まとめ
後悔なく転職活動を進め、理想のキャリアにつながる転職先を見つけるには、希望条件の洗い出しや転職先となる医療機関の情報収集といった事前準備が重要です。
自分の理想のキャリアを見直したり、知りたい情報を正確に入手したりする時、一人で取り組むよりも第三者の協力を得ながら動くほうがスムーズに進む場合もあります。
準備が不十分なまま転職して後悔するような事態を避けるため、知人や紹介会社などの手を借りながら、転職活動を進めてみてもいいかもしれません。
【参考】回答者の属性
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・「契約書の相互確認」「複数の転職先の比較」…今思うとこうすればよかった…医師の転職活動で後悔していること(自由回答)