医師が勤務条件や勤務環境を改善したいと考えた時、転職は身近な選択肢の一つです。メディウェルの会員医師1,205人に実施したアンケート調査では、転職経験のある医師は全体の7割を超えていました。
転職回数が多い場合、次の転職に不利に働くことはあるのでしょうか。医療機関が医師の転職回数をどう受け止める傾向にあるか、医療機関との条件交渉などに10年以上携わってきたメディウェルのコンサルタントに聞きました。
また、医師の転職回数についてのアンケート結果を年代別や男女別に見た傾向についてもお伝えします(回答者の属性)。
※本調査での「転職」には、研修による施設異動や医局人事による異動、開業は含みません。

目次
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医師の7割超は転職を経験している
アンケート調査によると、転職経験がある医師は72.4%でした。転職支援サービスを提供しているメディウェルによるアンケートであることを踏まえても、医師にとって転職は身近な選択肢であることがうかがえます。
転職したことがある医師の中で最も多かった転職回数は「1回」(27.5%)でしたが、複数回以上転職している医師も44.9%いました。
また、転職を経験した医師の転職回数の中央値は2回でした。
転職経験がある医師が多い理由として、医師の需要が供給を上回っていることが挙げられます。
厚生労働省が2018年に発表している医師需給推計によると、医師の需要は2024年現在で供給を上回っている状態であり、2029年~2032年ごろに医師の需給が均衡すると推測しています。
今後、医師需給は均衡へ向かう見込みです。しかし、医師が売り手市場である状況は2024年現在も続いており、医師が勤務条件や待遇の向上を求めて転職しやすい環境であるといえます。
初めての転職に踏み切る医師が多いのは30代
医師の転職回数の世代別内訳を見てみると、「0回」が最も多かったのは29歳以下の世代で、75.0%という結果でした。年代が上がるにつれて転職未経験の医師は減少しており、60代以上では16.2%となっています。
各年代の転職回数ごとの割合を比較すると、29歳以下では「0回」の医師が75%と圧倒的に多くなっていますが、30代になると42.3%まで減っています。30代ごろにはじめての転職に踏み切る医師が多いことがわかります。
20代から30代は、結婚や妊娠出産といったライフステージが変化する時期に重なるほか、専門医などの資格取得を終える医師も出てくる年代です。
働き方を見直したり、給与面などより好待遇を求めて転職に踏み切る医師が増えることがうかがえます。
また、40代になると、複数回転職を経験している医師の割合が49.9%となり、30代の24.1%から倍以上に増えています。
専門医やサブスペシャリティなどの資格取得が済み、経験年数で見ても中堅医師の域に入ってくる時期で、より良い勤務条件を求めて転職する医師が増える世代だといえます。
女性医師のほうが転職を経験している割合が高い傾向
医師の転職回数について男女別の傾向を見てみると、転職を「1回」~「5回」経験している割合は、女性医師のほうが男性医師よりも高くなっていることが分かりました。
また、男性医師は「0回」の回答割合が29.6%で最も多くなっているのに対し、女性医師では「1回」が30.8%で最多となっており、女性医師は男性医師に比べて転職に踏み切っている医師が多いことが見て取れます。
ただし、若い年代の医師は転職回数が少ない傾向にあるため、女性医師の年齢層が男性医師よりも高世代に偏っていた場合、性別よりも年代別の傾向が影響している可能性もあります。
転職経験のある医師の男女別×年代別のデータを見てみたところ、男性医師は30~50代に分布していたのに対し、女性医師は30~40代に重点的に分布していました。
若年層の割合はむしろ女性のほうが多いことから、年代の影響はないものと考えられます。
過去の転職回数が多いと、医療機関からの印象が悪くなる?
医師の転職回数は、医療機関が医師を採用する際にどれくらい重視され、またどのような印象を持たれているのでしょうか。
医療機関との条件交渉などに10年以上携わってきたメディウェルのコンサルタントに聞きました。
医療機関は医師の転職回数や転職期間を重視している
医療機関が採用時に医師の職務経歴を見る時、転職回数は重視されています。
以前は医師不足のため医師にとってかなりの売り手市場で、転職回数などの条件はさておき医師を採用したい、というニーズが高い状態でした。
現在も売り手市場の状況は続いていますが、程度は緩やかになっています。
医療機関側も「より長く安定して勤務してもらえる医師を採用したい」と、医師の経歴をより重視する風潮に変化してきています。
また転職回数に加えて、前職の在職期間も重視される傾向があります。
過去に短期間で転職している経歴があると、「採用してもすぐに転職してしまうのではないか」といった疑念を持たれやすくなってしまいます。
転職回数が多い医師に対して医療機関が抱く懸念とは?
転職回数の多さや転職期間の短さが目立つ医師に対して、医療機関は具体的に次のような不安を持つことが多いです。
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- 協調性に欠けるのではないか
- 同僚と円滑にコミュニケーションをとる能力が不足しているのではないか
- 辞め癖、諦める癖がついてしまっているのではないか
- 勤務条件へのこだわりが強く、融通が利かないのではないか
いずれの点においても、医療機関の求めるレベルと医師が考えているレベルに差があるとトラブルの元となります。
例えば「当直なし」といった勤務条件で転職したとしても、同僚の体調不良で1日だけ当直の交代を依頼されることもあり得ます。
そういった突発的かつ一時的な勤務条件の変更にどの程度柔軟に対応できるかというところは、医師の考え方や生活環境などによって変わってくる部分です。
医療機関は、柔軟に対応できる医師を優先的に採用するため、転職回数や在職期間を採用の判断材料としているのです。
転職で不利になりかねない転職回数や転職期間の目安は?
では、どのくらいの転職回数や転職期間で医療機関は採用に不安を感じるのでしょうか。
転職回数は、医局による人事異動を除いて5~6回を超えてくると「多い」と感じる医療機関がほとんどという印象です。
ただし、転職回数の多さの基準は年代によっても異なる点に注意が必要です。たとえば同じ「3回」という転職回数でも、30代前半の医師ではやや多い印象ですが、50代の医師であればごく一般的だと受け止められます。
また、転職期間に関しては、同じ勤務先での在職期間が1年に満たない場合「短い」ととらえられやすいです。
転職回数が多い医師が転職活動で押さえるべきポイント
転職理由を明確・正直に伝える
過去の転職回数が多い医師が新たに転職を検討する場合は、それぞれの転職理由を明確にしておくことが大切です。
この時、転職理由につながる背景を正直に伝えるよう意識しましょう。
良いイメージを持たせようと見栄えのいい理由を並べるよりも、医師のライフイベントや将来的なキャリア像など、人生に関わるリアルな事情に紐づいた理由のほうが説得力が増します。
例えば「子どもが想定よりも教育費のかかる進路を希望しはじめて、できるだけ早く給与アップの実現が必要になった」「前回の転職で、聞いていた勤務条件と実態が全く異なっていた。1年働いたが、やはり理想のキャリアをかなえていくために再び転職の道を選んだ」など、さしつかえない範囲で具体的に伝えると理解を得やすいです。
希望条件の中で譲歩できるポイントを整理する
自身の希望条件の中で譲歩可能なものをピックアップし、応募する求人の幅を広げたり、医療機関との条件交渉に活用したりすることもお勧めです。
転職歴が多い医師はフットワークが軽く、「まずはやってみよう」というトライ&エラー精神を持っている人も少なくありません。
譲歩できる条件と積極的に挑戦する姿勢を合わせてPRすることで、医療機関によってはむしろ魅力を感じてもらうこともできるかもしれません。
まとめ
医師は転職回数が多くなりがちな職業で、採用する医療機関側も事情は理解しています。
たとえ転職回数が多くても、明確かつ理にかなった理由をしっかり伝えることができれば、次の転職に支障が出るような事態にはなりにくいといえるでしょう。
ただ、医師の転職には時間や労力がかかります。少ない転職回数で納得いく勤務先を見つけたいと感じる場合や、転職回数が多く次の転職に不安を抱えている場合は、紹介会社のコンサルタントなど経験豊富なプロに相談してみてもいいかもしれません。
【参考】回答者の属性
調査概要
年齢
性別
診療科
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主たる勤務先









