医師の働き方改革に関する議論が厚生労働省で進められていますが、多くの勤務医が負担に感じているのが夜間の当直勤務となっています※1。そこで、株式会社メディウェルでは、2017年10月~11月にかけて、会員医師向けに当直に関するアンケート調査を行ないました。以下に調査内容とその結果について公表します。

<結果の概要>
【医師の当直回数】
・医師の当直回数は平均で月2.5回。このうち当直なしが約1/4を占めており、当直ありの医師に限れば、平均で月3.5回当直をしている。
・診療科別では産科・産婦人科と救命救急科で当直回数が多く、眼科と腎臓内科で当直回数が少ない。当直月7回以上の医師の割合は、産科・産婦人科で25%、救命救急科で35%となっている。
【当直時・当直前後の状況】
・当直時の睡眠時間は平均4.9時間となっており、内訳では5~7時間の医師が約半数を占める。
・当直前は95.4%が通常勤務、当直後は82.5%が通常勤務となっており、32時間以上の連続勤務をしている医師が多くなっている。
・当直明けでのヒヤリ・ハットの経験がある医師は半数以上を占め、最も多かったのは処方・投薬・オーダーミスとなっている(ヒヤリ・ハットに関する自由回答)。
【当直に関する医師の問題意識・希望】
・医師が適切と思う当直回数は月平均2.2回で、当直0回の医師を除くと平均2.5回となっている。
・勤め先で当直回数を軽減する取り組みが実施されていて、かつその効果を実感できている医師は全体の14.4%に留まる。
・現在の労働環境に関して問題を感じている医師は約8割を占めた。
・当直および医師の労働環境に関する自由回答では、当直明けの勤務の軽減を求める回答が587人と最も多かった(当直に関する自由回答)。
調査内容 | 常勤先での当直状況に関する医師へのアンケート調査 |
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調査対象者 | 株式会社メディウェルに登録している医師会員 |
調査時期 | 2017年10月26日~2017年11月30日 |
有効回答数 | 1,649件 |
調査公開日 | 2017年12月13日 |
目次
- 1.回答者の診療科別の内訳
- 2.当直している医師は全体の約4分の3
- 3.月間の当直回数は平均2.5回(当直ありのみでは3.5回)、内訳は2~3回と4~5回が多い
- 4.救急と産婦人科が最多、診療科別の当直回数
- 5.当直時の睡眠時間は平均4.9時間
- 6.当直前後ともに8割以上の医師が通常勤務
- 7.当直明けでのヒヤリ・ハット、「経験あり」が半数以上
- 8.「違う薬剤を投与」「手術中に居眠り」当直明けでのヒヤリ・ハットの内容(自由回答)
- 9.適切だと思う当直回数、最も多かった回答は月2~3回
- 10.勤め先での当直回数の軽減に向けた取り組み、効果を実感しているのは14.4%のみ
- 11.当直を含めた医師の労働環境、「改善したい」が約8割
- 12.「当直明けは完全休みに」「勤務交代制の工夫が必要」当直に関する医師の自由回答
- 13.まとめ
回答者の診療科別の内訳
回答者の診療科別の内訳は下表のようになっております。
厚生労働省のデータと比較するとやや皮膚科、精神科、麻酔科などで多くなっているものの、おおむね全国の診療科別の医師数を反映した内訳となっています※2。
当直している医師は全体の約4分の3
医師で当直業務を行なっている割合は下表のようになっており、全体の約4分の3にあたる医師が当直業務を行なっている結果となりました。
月間の当直回数は平均2.5回(当直ありのみでは3.5回)、内訳は2~3回と4~5回が多い
医師の月間での平均当直回数(下表左)は、回答者全体では2.5回、当直ありの人のみでは3.5回となりました。
当直回数の内訳(上表右)では、当直0~1回を除くと、2~3回と4~5回が多くなっています。一方で、当直7回以上の医師も全体の6.7%と一定数いるという結果となりました。
救急と産婦人科が最多、診療科別の当直回数
診療科別の平均当直回数および月7回以上の当直の割合は以下のようになっています(回答が20人以上あった診療科のみでの調査)。
平均当直回数では救命救急科と産科・産婦人科が特に多くなっています。「当直ありのみ」の場合で比較すると、当直回数が多い診療科は、順に産科・産婦人科(6.0回)、救命救急科(5.5回)、総合診療科(4.5回)、麻酔科(4.3回)、小児科および精神科(同率で3.9回)となっています。
一方で、当直回数が少ない診療科は、順に眼科(2.2回)、腎臓内科(2.3回)、耳鼻咽喉科(2.6回)、整形外科(2.7回)、および放射線科、内分泌・糖尿病・代謝内科、皮膚科(同率で2.8回)となっています。
また、当直回数が月7回以上の割合(下表)でも救命救急科、産科・産婦人科、総合診療科が多く、その他では脳神経外科でも当直回数が7回以上の割合が10%と、他科に比べ多くなっています。
<参考>当直回数が最も多かった医師は?
診療科によっては当直回数が7回以上の医師も多いことがわかりましたが、当直回数が最も多い医師で月に何回ぐらい当直しているのでしょうか。回答の中で当直回数が特に多かった医師の当直回数と診療科を調べると、以下のようになっていました。
最も多かったのは放射線科で月20回でした。以下、麻酔科(19回)、産科・産婦人科(18回)が2番目、3番目に多く、次いで麻酔科、産科・産婦人科、形成外科、整形外科、消化器内科で15回という結果となっています。2人ずつ入っている麻酔科と産科・産婦人科では、当直回数が極端に多くなる医師が出やすい傾向があるのかもしれません。
また、今回は常勤のみの当直回数の調査のため全体の結果からは除外していますが、この他にも「非常勤も含めれば月20回当直している」という回答もありました。
当直時の睡眠時間は平均4.9時間
当直業務を行なっている医師で、当直時の睡眠時間について回答を得たところ、平均で4.9時間睡眠しているということがわかりました。
内訳では、5~7時間の睡眠となっている医師が約半数となっている一方、睡眠時間が4時間未満となっている医師も2割程度いるという結果になっています。
当直前後ともに8割以上の医師が通常勤務
当直前後の勤務状況は下表の結果となりました。
当直前は95.4%とほとんどの場合で通常勤務となっており、当直後も82.5%で通常勤務となっています。このため、8割以上の勤務医は、通常勤務―当直―通常勤務という32時間以上連続での勤務を続けているということになります。
なお、これに関しては過去の調査でも同様の結果が出ていますが※3、2017年現在に至ってもその状況は一向に変わっていないということが伺えます。
当直明けでのヒヤリ・ハット、「経験あり」が半数以上
これだけの連続勤務を続けていると、当直明けの勤務でヒヤリ・ハットに繋がることはないのでしょうか。調査の結果、当直している医師の半数以上(52.5%)で「ヒヤリ・ハット経験がある」ことがわかりました。
「違う薬剤を投与」「手術中に居眠り」当直明けでのヒヤリ・ハットの内容(自由回答)
ヒヤリ・ハットの具体的な内容について自由回答でもアンケートを取りました。多かった内容で分類すると、以下のような結果となりました。
処方・投薬・オーダーミスや、処置・手術中のミスが多くなっています。その他、運転中の危険など、当直明けでの疲れや集中力の低下が、業務内外の様々な面に影響を及ぼしていることが伺えます。
自由回答の例を一部抜粋すると、以下のようなものがありました。
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処方・投薬・オーダーミス
- 口頭指示で違う薬剤を投与しそうになった
- 薬剤処方の際に量を間違えた
- 普段しないような副作用の出やすい処方をしてしまう
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処置・手術中のミス
- 施術中の操作ミス
- 手技の手順を間違えそうになった
- 縫合ミス
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眠気・居眠り
- 手術中に居眠り
- 外来をやりながら意識が飛んだ
- 診察台で寝てしまった
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患者間違え
- 患者を間違えて指示を出していた
- 患者の名前を間違えそうになる
- 違う患者の採血をしそうになった
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カルテ等の入力ミス
- 電子カルテの入力ミス
- 眠気でカルテ記入中に意識が飛んだ
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診断・検査ミス
- free airを見逃した
- 腹部CT画像診断の読影ミス
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針刺し事故
- 針刺し事故をおこしそうになった
- 手技中の自己への針刺しなど
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運転中の危険・交通事故
- 居眠り運転
- 運転事故
適切だと思う当直回数、最も多かった回答は月2~3回
医師が適切だと思う当直回数の平均値(下表)は、回答者全体で月2.2回、「0回」と答えた回答者を除くと月2.5回となっており、医師の実際の当直回数よりやや少ない状況となっています。
内訳でみると、2~3回と答えている医師が1/3以上と最も多い結果となりました。
勤め先での当直回数の軽減に向けた取り組み、効果を実感しているのは14.4%のみ
当直回数は医師にとって適切だと思う回数より全体的にはやや多い実態となっていますが、医師の当直数を減らす取り組みは勤務先で実施されているのでしょうか。当直している医師への調査結果では、62.1%と大半の医師が「取り組み自体行われていない」と回答しています(下図)。「取り組んでおり、効果を実感している」と回答している医師は14.4%に留まり、未だに多くの病院では対策が進んでいない状況となっています。
当直を含めた医師の労働環境、「改善したい」が約8割
現在の労働環境に対する、当直している医師の問題意識を調査した結果は、下の円グラフのようになりました。
「問題を感じており、近い未来に改善したい」と「今すぐでなくても良いが、長期的には改善したい」という医師を合わせると、約8割の医師が現状を改善したいと考えているということになります。
「当直明けは完全休みに」「勤務交代制の工夫が必要」当直に関する医師の自由回答
当直を含めた医師の労働環境に関して、自由回答形式でも多数の回答がありました。そのうち、当直をめぐる現状の改善に関する回答をまとめると、以下のような結果となりました。
自由回答でありながら、当直明けの休み・勤務の軽減については581人の医師が言及しており、多くの医師が当直明けの勤務を改善したいと考えていることが伺えます。
当直に関する医師の自由回答の例は以下のようになっています。
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当直明けの休み・勤務の軽減
- 当直明けは完全休みにしてほしい
- 当直翌日はせめて半日勤務にしてほしい
- 救急車を断るななどと言うならば当直明けの勤務を半日とするなど考慮すべき
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夜勤扱い・交代制勤務
- 寝当直でなければ時間外労働とみなす法律を遵守すべき
- やせ我慢でなく勤務交代制の工夫が必要
- 遅出勤務や、夜勤専用など、看護師さんみたいな勤務体系になればよいとおもいます
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当直代の値上げ
- 当直環境を変えるのは難しいと思われるので、であれば当直料をあげてほしい
- 当直中は、1回いくら+実働時給が一番公平な支払いだと思う。他業種と違うので、無理に勤務に当たるか宿直かなんて議論は意味がない
- 当直代は非常勤と同じぐらい出して欲しい
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当直環境の改善
- プライバシー保護、ベッドはある程度適当な硬さにしてほしい
- 当直室の設備がひどい病院が多い(冷暖房が効かない、など)
- 掃除が行き届いていない当直室が多く、ハウスダストで寝ても疲れがとれない
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非常勤医師の活用
- 当直は完全にアウトソーシングで、常勤医が関わらない方がいいと思う
- 常勤医以外の当直要員の確保が必須と思います
- 外部から積極的に募集すればいいと思うのに、内部で安く回そうとしているのが問題
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医師数の増加
- 医師数が現状のままでは改善が困難だと思います
- とにかくローテ人数が増えないことには、解決できないことが多すぎ
- 人手不足がどうしようもない
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救急対応を無くす・救急対応医の別途設置
- 病院当直と救急当直は分けるべき
- 救急医療をやりたいなら、それ専門の医師を雇うべき
- 少なくとも救急患者対応目的の当直は見直されるべき。本来の当直と定義が違う
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年齢に伴う当直数制限
- 50歳を過ぎたら、給与を削減してでも、当直は免除してほしい
- 年齢による当直回数の制限やデューティーとしての当直の年齢制限が望ましい
例)30歳台までは月4回まで、40歳で月2回まで、50歳台で月1回まで、希望すれば当直免除など。55歳以降は当直勤務なし
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病院の集約化
- 欧米型の拠点病院集中化で一施設あたりの医師数を増やす
- 田舎には人はいないので、病院を集約して人を集めるべき
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当直の日程を早く決める
- 当直予定を早く出して、翌日の業務を予め整理できる余裕が作れるとよい
- 当直の日程が決まるのが遅いため、当直翌日はいつも通りの予約をこなさなければならない
まとめ
今回の調査から、当直や当直明けの勤務に関して問題意識を抱いている医師は多い一方で、勤務先での改善の取り組みはあまり進んでいないということが浮き彫りになったといえます。背景には、医師不足であることに加えて、「医師は特別」といった考え方もまだまだ根強く残っていることが挙げられます。
しかし、これは見方によっては今後医師の採用を強化したいと考えている医療機関にとってチャンスともいえる状況です。例えば当直明けの勤務緩和の実施が現状2割に満たない状況で、それを改善したいと考えている医師が多いということは、当直明けの勤務改善に取り組みアピールすることで医師の採用に繋がるといえます。
同時に医師にとっても、働きやすい環境づくりに取り組んでいる医療機関を積極的に選んでいくことで、全国的に医療機関が勤務環境の改善に向かうように後押しすることができます。また、働きやすさが増すだけでなく、当直明け勤務が減ることによる医療安全上のメリットもあります。
真面目な先生ほど、負荷が大きくても無理をしてそのまま勤務してしまいがちですが、その結果体調を崩したりインシデントを起こしてしまうこともあります。当直に関する今回の調査結果を踏まえて、「将来を考えた際に、今の状況で仕事でも家庭でも継続して活躍できるだろうか」という視点から、自らの働き方をもう一度見直しみてはいかがでしょうか。
参考資料
※1 2015年7月から2016年6月までの1年間での医師転職ドットコム利用者へのアンケートの結果、医師が転職する際に最も多い希望は「当直を減らしたい」だった。
※2 厚生労働省『平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況』
※3 株式会社ケアネット「当直勤務に関する調査」(2014/4/7)より