医師はそのほかの職種と比べると、転職回数が多い職業です。勤務先に対してなんらかの不満を抱き、新しい職場を求めて転職していると考えられます。
株式会社メディウェルのサービスに登録している医師1,060人に対して勤務先の満足度アンケートを行い、医師が勤務先に抱く満足度を調べたところ、特に大学病院の勤務医の満足度が最も低い傾向が明らかになりました。
アンケート結果から、大学病院の勤務医が現在の勤務先に抱いている具体的な不満のポイントや、医師が勤務先を選ぶときに重視する点などをご紹介します(回答者の属性)。

目次
医師が勤務先選びで最重要視するのは「給与」
最初に、医師が勤務先選びで何を重視するか聞いたところ、結果は次のグラフのようになりました。
「給与」を重視する声が最も多く、回答した医師の半数近くが挙げています。次いで「職務内容」、「労働時間」の回答が多くなっています。
労働に見合う対価や適正な労働時間など、実利にかかわる部分を重要視していることがうかがえます。同時に、「自分の興味がある分野で働きたい」といった、仕事の内容を重んじる医師も多いことがわかりました。
では、実際に今働いている勤務先について、医師はどのように評価しているのでしょうか。
勤務先の種別ごとに傾向を分析していきます。
大学病院の勤務医の満足度が顕著に低い傾向
この章では、勤務先選びで医師が重視していると分かった「給与」「職務内容」「労働時間」の満足度について、勤務先種別ごとに比較。さらに、「経験・スキルアップ」の満足度にも焦点を当てています。
給与の満足度
「大変満足」「満足」の回答に注目すると、大学病院の勤務医では2割以下と、特に低くなっているのが目立ちます。逆に高い傾向が見られるのはクリニックの勤務医で、「満足している」回答が半数を超えています。
過去のアンケート調査によると、大学病院で勤務する医師の年収(主たる勤務先の収入のみ、中央値)は800万円未満となっています。アルバイトの収入を含めた大学病院勤務医の年収(中央値)は1300万円で、アルバイトをすることで収入を補っている医師が多いことがわかります。
大学病院以外の病院で勤務する医師の年収(主たる勤務先の収入のみ、中央値)は1500万円、クリニック勤務医の年収(同)は1300万円と、大学病院の勤務医は他の勤務先で働く医師と比較して年収が低い傾向にあります。
職務内容の満足度
給与の満足度ほどではないものの、大学病院の勤務医の満足度が4割弱と低い傾向にあります。
最も高いのは企業に勤めている医師で、満足していると回答した医師は6割強です。
企業に勤務する医師の中で多いのが産業医です。
産業医は予防医療や重症化を未然に防ぐ業務がメインで、宿日直などもないため臨床医に比べて休日が確保しやすく、転職先としての人気が高い特徴があります。
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満足度が高い順にみると、企業に勤める医師に次いで、クリニックの開業医、勤務医が続いています。特に開業医は自ら病院を経営し、診療方針などに関しても自由が利くため、職務内容への満足度が高くなるのは自然だと考えられます。
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労働時間の満足度
労働時間についても、大学病院の勤務医の満足度が最も低く、3割弱となっています。最も高いのは企業に勤める医師の7割強で、職務内容の満足度と同じ傾向が見られました。
クリニックの開業医と勤務医で比べると、開業医のほうが満足度が低くなっています。診療以外にも経営業務が加わり、労働時間が長くなることがうかがえます。
ここまで、医師が勤務先選びで重視するポイントの上位3ついずれについても、大学病院の勤務医の満足度が特に低い傾向が見られました。
では大学病院には魅力がないのかというと、そんなことはありません。
「経験・スキルアップ」における満足度についてみると、大学病院の勤務医が「満足している」回答の割合のトップを飾っています。
経験・スキルアップの満足度
大学病院の勤務医は他の臨床医に比べて貴重な症例に触れる機会が多いほか、勤務する医師数も多いため先輩医師からの教えを受けることもかないやすい環境です。スキルを磨きたい、多様な症例を経験して専門性を深めたいと考える医師にとっては、魅力的な勤務先といえるのではないでしょうか。
医師は勤務先にどんな不満を抱えている?
勤務先に対する満足度について、全体の傾向を分析してきました。それぞれに対して医師が具体的にどんな悩みを抱えているか、アンケートの自由回答の中から一部ご紹介します。
給与
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- 将来に向けて報酬アップ(クリニック勤務、30代男性、心療内科)
- 給与が安い。人手不足(病院(大学病院以外)勤務、20代女性、呼吸器内科)
- 給与をあげたい(病院(大学病院以外)勤務、30代女性、緩和ケア)
- 仕事としては安定しているが、キャリアアップに繋がらず、加えて薄給(大学病院分院勤務、30代男性、呼吸器内科)
- スキルアップはできたので、給与重視で転職したいが、少し長くいすぎたので、移動するのは裏切るようで動きづらい(病院(大学病院以外)勤務、30代男性、消化器内科)
職務内容
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- 一般病院では大学病院のような特殊な症例を持つことが少ないため、医師としてのやりがいや達成感は少ない(病院(大学病院以外)勤務、30代女性、麻酔科)
- 慢性的人手不足。職務内容が割に合わない(病院(大学病院以外)勤務、60代女性、一般内科)
- 人手不足で雑用ばかりで研究も研鑽もできないので辞める予定(大学病院勤務、30代女性、放射線科)
- 産業医の資格を活かせる働き方(企業勤務、40代女性、健診・人間ドック)
労働時間
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- 年々業務が増えており、必死に働いても勤務時間内に終われないこともしばしばあるのが苦痛(病院(大学病院以外)勤務、40代女性、消化器外科)
- 土曜勤務があり、連休が少ないことがつらい(クリニック勤務、40代男性、耳鼻咽喉科)
- 時間外の待機が毎日(病院(大学病院以外)勤務、40代男性、一般内科)
- 勤務時間を短縮したい(病院(大学病院以外)勤務、50代女性、整形外科)
人間関係
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- 上司のパワハラがひどい(病院(大学病院以外)勤務、50代男性、小児科)
- 医局の人間関係が悪い(病院(大学病院以外)勤務、50代男性、整形外科)
- 同僚の悪口を患者に言う医師と働くのに疲れています(クリニック勤務、50代女性、産婦人科)
- 従順ではない職員を排除しようとする管理職がおり、困っている(病院(大学病院以外)勤務、60代男性、一般内科)
経験・スキルアップ
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- スキルアップのため他院へ見学にいこうと思っても、時間的余裕がない(大学病院勤務、30代男性、脳神経外科)
- 内視鏡の技術も高めたい(病院(大学病院以外)勤務、60代男性、一般内科)
また、2024年4月から本格的に始まった医師の働き方改革に関連して、働き方の変化を実感・予想しているという声もありました。この点については今後さらに制度が浸透し、勤務先への満足度に影響してくる可能性があります。
働き方改革に関連する悩み
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- 働き方改革による医療施設の減少→医師需要の減少を危惧しており、つぶしのきく仕事に従事し生き残りをかけたい(健診会社、50代男性、健診・人間ドック)
- 働き方改革で、毎日出勤できなくなった。重症患者さんをじっくり診ることができなくなって、残念(病院(大学病院以外)勤務、50代女性、小児科)
- 雇われ理事長なので、4月からの働き方改革から除外されており、他の先生方の勤務軽減のあおりで却って勤務内容がきつくなること(クリニック勤務、50代男性、呼吸器内科)
まとめ
今回のアンケート調査では、給与や職務内容、労働時間といった医師が勤務先を選ぶ際に重視する点において、大学病院の勤務医の満足度が全体的に低くなっていることがわかりました。
大学病院に勤務する医師の多くが「勤務環境や労働条件を改善してほしい」と感じている現状がうかがえます。
とはいえ、スキルアップ面では満足度が最も高いなど、大学病院ならではの魅力も見えました。
勤務先ごとの特色と、それにともなうメリット・デメリットを踏まえたうえで、医師自身が希望するキャリアに合わせて勤務先を選ぶことが大切ではないでしょうか。
【参考】回答者の属性
調査概要
年齢
性別
診療科
地域
主たる勤務先










