医局に所属するメリット・デメリットとは?

「将来を考えると、このまま医局に残る方がいいのだろうか?そろそろ離れるべきだろうか?」
「まずは医局に入った方が良いのだろうか?それとも入らないで別のキャリアを歩んだ方が良いのだろうか?」
「医局にいるメリットとデメリットはどちらが大きいのだろう?」

医局のメリット・デメリットはどちらが大きい?

 

多くの医師にとってキャリアを考える上で大きな存在といえば、やはり大学の医局です。そこで、医局に所属することのメリット・デメリットについて、これまで数百人に及ぶ医師のキャリアを支援してきたコンサルタント2名にインタビューを行ない、以下にまとめています。今後、医局に在籍すべきか否か検討する際の参考としてご活用ください。

入局・退局にまつわる最近の動向

医師が医局のメリット・デメリットについて考えるタイミングは大きく2つあります。それは①入局のタイミングと、②退局のタイミングです。それでは入局・退局のタイミングで他の医師はどのような選択をしているのでしょうか?まずは最近の動向について押さえていきます。

 

①入局に関する最近の動向

転科などで卒業後ある程度経ってから医局に入ることもありますが、圧倒的に多いのは、初期研修が終わって3年目、後期研修を迎えるタイミングです。厚生労働省の平成28年度の調査によると、初期研修終了後に入局する割合は以下のようになっています。


臨床研修終了後の入局予定

 

初期研修終了後に入局を予定している医師は、全体の74.2%という結果となりました。2004年の新臨床研修制度の開始以降入局しない医師が増えたとはいえ、依然として7割以上の医師は医局へ入局することを選んでいる状況となっています。

 

②退局に関する最近の動向

医師の転職理由に関する調査によると、「大学病院・医局を辞める・離れる」という理由が2番目に多く、多くの医師がキャリアの転機において退局を検討していることが伺えます。また、日経メディカルオンラインが2016年12月に行なった調査では、大学医局に所属したことのある医師3,169人のうち、1,374人(約43%)が現在は所属していない(退局している)と回答しています※1

以上をまとめると、全体の7割以上の医師が一旦は入局するのに対して、4割以上の医師はその後医局を辞めるという選択をしており、一定程度の経験を積んだ後は医局に所属しないことを選択する医師が多いということを伺わせます。

医局に所属するメリットとは?

それでは、医局に所属するメリットとは何でしょうか?以下7点について見ていきます。

①学位(医学博士)の取得

医局に入ることで得られるものの一つとして、医学博士号があります。学位授与は教授でないとできないため、これまで医局の求心力を保つ手段としても機能してきた経緯があります。平成28年度の初期研修医への調査でも、全体の約4割の医師が医学博士を希望しているという結果が出ています※2

しかし、研究や教育を今後のキャリアの中心に考えている場合はともかく、臨床に携わる上で医学博士の有無はあまり重視されないというのが現状です。病院やクリニックなどの求人でも、医学博士の有無が条件となることはほとんどありません。臨床を中心としたキャリアを歩もうとしている医師の場合、実質的なメリットはほぼないといえます。

また、医学博士の取得をキャリア上の一つの目標としていた場合であっても、一旦博士号を取得し目標を達成してしまった後は、医局に残るメリットが見えづらくなることは間違いありません。

 

②専門医などの資格取得

平成28年度の初期研修医への調査では、専門医を取得したいと考えている医師は全体の9割以上に上っています※3。このため、医局に入って専門医などの資格の取得を目指すという医師も多くなっています。

診療科にもよりますが、医局に所属していないと専門医の取得が難しい場合があります。したがって、専門医を取得する上で医局に所属することはメリットとなります。ただし、症例が回ってこないという理由で医局を離れて専門医などの資格取得を目指す医師が一定数いるのも事実です。

一方、2018年4月から新専門医制度の開始が予定されています。基幹病院を中心として複数病院で研修するプログラム制が基本で、基幹病院には大学病院がなることが多いため、大学医局に所属しないと専門医の取得が難しくなるのではないかと危惧する声もあります。

これに関して、日本専門医機構は「研修の中心は大学病院のみでなく、症例の豊富な地域の中核病院などを含む」ように専門医制度の整備指針を改めています※4。しかし、実際にどうなるかはプログラムの確定まで不透明な状況で、「どうなるかわからないためとりあえず医局にいる」という選択をしている医師も一定数います※5

専門医などの資格の取得や維持には一定のコストや労力が必要です。メリットと照らし合わせた上で、自分のキャリアにおいて「そもそも取得すべきかどうか?」ということを検討すると良いかもしれません。以下にて転職時の専門医のメリットについてまとめていますので、気になる方はご参照ください。

>>専門医取得の転職上のメリットはどれぐらいか?

 

③経験の幅(基礎研究や留学)

基礎研究や留学などによる幅や機会を多く得られることも、医局に所属するメリットです。また、大学病院では中小病院にはなかなかないような最新設備や希少症例などもあり、そのような意味でも得られる経験の幅は広いといえます。

 

④人的交流・指導

医局に所属しているからこその人的交流もメリットの一つとして挙げられます。上級医からの指導を得られたり、医局のネットワークを使い最新の情報や海外の情報を得たり、将来につながる人脈を得られたりすることもあります。

 

⑤リスクの低減

医局に所属することで就業に関するリスクを減らせる面もあります。具体的には(希望が通るかは別として)安定して働き口を確保できるということや、何かあった場合に医局の傘によって守られるということが挙げられます。

ただし、安定雇用という点については、医師の紹介会社の普及に伴って医局以外でも転職先を見つけやすくなった現状では、よほどのことがない限り自分の生計を営むために医局派遣に頼る必要はないと考えられます。

 

⑥子育てへのメリット

これは全ての医局に共通するものではありませんが、医局に所属することが子育てのメリットになることもあります。医局内では比較的医師が多いため、休職時の体制を組みやすかったり、制約がある中での職場の復帰に関して融通を利かせてくれたりといった対応をしてくれる医局もあります。

一方で、あまり子育てに理解のない医局では、なかなか休ませてもらえない場合や、妊娠がわかった時点で嫌がらせに近いような扱いを受けることもあるため、この辺りの事情はどの医局に入るかによって異なってきます。

 

⑦アルバイト

これも医局によって異なりますが、所属していることで、一般に募集されている条件よりも割の良いアルバイト(外勤)先を紹介してもらえることもあります。特定の医療機関と医局単位で関係を築き、優先的に求人の紹介を受けている場合などです。

ただし、そのような求人は限られており、また教授や医局長の手間も大きくなるため、むしろ紹介会社経由でのアルバイトが中心になっている医局もあります。

医局のデメリット

次に、医局に所属することのデメリットについて以下に見ていきます。

①医局人事による異動

医局を辞めたいと考える医師が感じている不満として、最も多いのが人事への不満です※6。自分の希望に反する人事や、数年単位での突然の異動を繰り返すことを負担と感じる医師が多くなっています。また、家庭事情などのライフステージの変化に伴い、先が見通せない医局人事から離れて、落ち着きたいというケースも多いようです。

 

②勤務負担

大学病院での勤務負担に不満を抱く医師も多いです。大学では通常の診療業務に加え、研究や論文執筆、その他診療外の業務も重なります。また、十分な収入を得るためには別途アルバイトをしなければならないことも多く、多忙さにより肉体的にも精神的にも疲弊しやすい状況にあります。

 

③給与・待遇

大学病院の給与が低いこともデメリットの一つです。2015年の東洋経済の特集記事では、以下のような実態を紹介しています。

大学病院で働く勤務医の給与は、思った以上に安い。40代の大学病院講師は「通常、大学からの給与は年収に換算して700万~800万円で頭打ち。教授になっても同1200万円程度」と明かす。別の大学病院の准教授は「大学からの給与なんて期待したことはない。今の年収は900万円台」と言う。

 

民間病院では1,500~2,000万円ぐらいの収入を得られるような経験や勤務内容で働いたとしても、大学病院では薄給となっていることが多いです。このため、特に家族環境などライフステージが変化して収入をある程度確保しなければならないというタイミングでは、現状への不満が大きくなります。

 

④職場環境・人間関係

医局内での人間関係に疲れたり、しがらみが合わなかったりしたことが理由で医局を辞める医師もいます。また、大学病院のような大きな組織になると、部門間の隔たりが大きくなり、業務の連携が上手くできないということもあります。

 

⑤症例数

大学病院での症例数に不満がある場合も少なくありません。大学では専門性の高い珍しい症例を診られるというメリットはあるものの、症例数は市中病院の方が経験できることが多くなっています。

下図は大学病院・大学以外の臨床研修病院のそれぞれで研修を受けた初期研修医の満足度アンケートの結果ですが、経験した症例の数・種類ともに大学以外の臨床研修病院での満足度の方が高くなっています


経験した症例に対する満足度

 

また、大学病院では症例があっても自分に回ってこないという問題もあります。2015年に聖マリアンナ医大病院で発覚した精神保健指定医の不正取得の問題の背景にも、指定医に必要な症例がなかなか回ってこないという事情があったと考えられます。

 

⑥将来性

医局での在籍年数が長くなると、将来自分がどこまで出世できるかがある程度わかってくることがあります。ある程度先が見えてしまった中で、このまま医局に残るという選択肢が魅力的に感じられなければ、医局の外でのキャリアを考えることになります。

また逆に、今後教授選を控えている場合、その結果によってはどうなるかわからないということもあります。これまで長らく医局内で苦労を重ねてきても、教授選の結果次第では医局内で非主流派となる可能性もあり、医局に残っていることで報われるとは限らないという不安定さを抱えることになります。

 

⑦医局の関連以外の医療機関の情報がわからない

医局に所属していると、医局と関わりのある医療機関の情報については非常に詳しくなるものの、関連以外の医療機関の情報を知る機会は少ないといえます。そのため、自分のキャリアにとってチャンスとなるような話が医局外部の病院であっても、その機会を気づかずに逃してしまうといった機会損失が生じている可能性があります。

今後医局に所属すべきか?医局以外か?迷ったときの判断基準

医局には以上のようにメリット・デメリットがありますが、実際に医局に入るかどうか、あるいは医局を辞めるかどうか迷っている場合、どのように考えれば良いのでしょうか?これに関して、ドラマ「白い巨塔」の監修をされた里見清一先生※7の最近の書籍では、以下のように説明されています。

もちろん大学病院へ入局するメリットは、ないことはない。まず、基礎的な研究ができる。それに、なんだかんだと(完全に自分の希望が通るわけではないが)就職口の世話をしてくれるから、「食いっぱぐれ」は少ない。裏を返せば、別に基礎的な研究をしたいという希望がなく、かつ、臨床医として自信があって「おのれの力でどこにでも仕事は見つけられる」と考えている人間には、入局の有難味は感じられないのである。

里見清一「医者とはどういう職業か」幻冬舎新書、2016年9月、第8章第7節より

 

つまり、①基礎的な研究をしたいかどうか②臨床医として自分で仕事を見つける自信があるかどうかの二点が医局に入る際の判断基準とされています。

このような医局に対する考え方は、医師によっても様々な基準があります。ここではメディウェルのコンサルタントが相談を受けた際に、検討すべきこととしてお伝えしているポイントを幾つか紹介させていただきます。

 

キャリアにおける優先順位を決める

医師がキャリアにおいて実現したいことは多岐にわたるでしょう。やりがいのある仕事をしたい、自分の専門分野を活かしたい、こういうスキル・知識を身に付けたい、研究もしたい、こういう人達と一緒に働きたい、病院はできるだけ綺麗で立地の良いところが良い、資格はこれが欲しい、将来的にはこのような役職に就きたい、経営にも興味がある、後進指導にも携わりたい、学会活動にも参加したい、自分の趣味の時間も欲しい、収入もこれぐらいは欲しい、診療上のリスクはなるべく避けたい、休日もしっかり取りたい、当直やオンコールは減らしたい……。

全てを同時に叶えることは大変なことです。そこで、それらの優先順位を決めるということが重要です。例えば、自分の希望の中で譲れない上位3つの希望に絞り、それを軸として今後のキャリアを考えます。

そうして仕事上の軸が決まれば、その軸に照らし合わせて、医局にいる方が良いのか、それとも医局の外でキャリアを歩んでいく方が良いのかを検討しやすくなります。

 

自分の希望の優先順位を明確にしていく上で考えておきたい具体的な質問

特に医局に残るかどうか迷っている状況であれば、以下のような具体的な質問を自分に問いかけることで希望の優先順位を明確にしやすくなります。

    • これから取得したい資格はありますか?
    • この先やりたい研究はありますか?
    • 臨床と指導どちらを中心にしたいですか?
    • 将来開業は考えていますか?
    • 専門と一般のバランスはどのように考えていますか?(例えば消化器内科を専門とする場合、消化器内科の症例が6割、一般内科が4割程度のバランスが良いなど)
    • 給与や休日などの勤務条件で、家庭やプライベートも考慮に入れた場合、譲れない条件は何ですか?
    • 5年後、10年後はどうしていたいですか?

以上のような質問を考えていくことで、次第に自分の中での仕事の軸が固まっていくと思います。その上で、医局に残っている自分と医局の外にいる自分のどちらがイメージできるか、改めて考えてみると良いでしょう。

 

様々な選択肢があることを知る

自分の希望の優先順位が明確になったとしても、どのような選択肢があるのかがわからないままでは、良い選択はできません。医局の中と外にそれぞれどのような選択肢があるのか、思い込みだけで判断せずに視野を広げて情報収集することが必要です。

例えば、研究を行なうとしても、大学でなく民間の機関で研究するという選択肢もあります。また、専門医などの資格を取る際には、医局に入らないという選択肢もあることが盲点になることがあります。

将来開業を考えている場合は、そのために医局でネットワークを築いておく方が良いのか、クリニック勤務の経験を積んだ方が良いのか、それとも将来の紹介先となる民間の医療機関に勤めた方が良いのか、とにかく開業資金を貯めた方が良いのか、といった検討事項が出てきます。

更に、医局か、医局外かという二者択一以外の選択肢もあります。医局(同門会)に籍は残しつつ転職するという場合や、医局人事から離れつつも週1回大学病院で外勤したり非常勤講師として勤務を続けるなど、医局との関係を保ちつつ自分の希望の働き方を叶えている医師もいます。

自分にどのような選択肢があるのかを知るには、他の医師の話を聞く、実際に求人を探す、信頼できるコンサルタントに相談するといった方法が考えられます。

いずれにしても、様々な可能性を知った上で、自分の希望の軸に沿ってキャリア選択していくことが望ましいといえます。

まとめ

以上をまとめると、医局に所属することのメリット・デメリットは次のようになります。

医局のメリット

    • 学位(医学博士号)の取得
    • 専門医などの資格取得
    • 基礎研究や留学などの経験の幅
    • 人的交流や指導
    • 仕事上のリスクの低減
    • 子育てへのメリット
    • 割の良いアルバイト

医局のデメリット

    • 医局人事による異動
    • 大きい勤務負担
    • 低い給与水準・待遇
    • 医局内や大学病院での職場環境や人間関係
    • 少ない症例数
    • (先が見えてしまうことや教授選に伴う)将来への不安や不満
    • 医局以外のことがわからない

医局にいるべきかどうか迷った際には、①キャリア上の希望の軸を明確にする②広い視野をもって様々な選択肢の情報を収集するということが重要となってきます。

医局は医師にとって大きい存在だからこそ、医局に入る場合も退局を考える場合も、慎重に情報収集して検討し、自分にとって納得いくまで答えを探してみてはいかがでしょうか。

 
<注>
※1 日経メディカルオンライン,2017年1月25日の記事より
※2 厚生労働省「平成28年度臨床研修修了者アンケート調査結果概要」27ページ。
※3 同、30ページ。
※4 過去記事「再延期の可能性は?新専門医制度に関する最新動向」を参照。
※5 過去記事「新専門医制度によって医師の転職事情はどう変わってきたか?」を参照。
※6 過去記事「医局を辞めようと考えたら?医師の転職事例に学ぶ、退局の方法と注意点」参照。
※7 著者名である「里見 清一」はペンネーム。本名は國頭 英夫で、現在は日赤医療センターの化学療法科に勤務している。