専門医取得の転職上のメリットはどれぐらいか?専門医が重視される職場・重要でない職場の特徴<専門医制度と医師の転職事情③>

専門医はどれぐらい重要?転職上のメリットの有無を調査

2017年6月2日の理事会で、日本専門医機構は「専門医取得は義務ではない」ことの明記などの修正を盛り込んだ新専門医制度の整備指針の改訂を正式に了承しました※1

一方で、2016年の初期研修医へのアンケートでは、男女ともに9割以上の研修医が専門医取得を希望しており※2、大多数の研修医が専門医の取得をキャリアにおける既定路線と捉えていることが窺えます。

しかし、専門医は更新料や学会参加に関わる費用など、取得時だけでなく取得後の維持にも一定のコストや労力を要します。そのため、専門医取得・維持に伴うコスト・労力の対価として具体的にどれぐらいのメリットがあるのかについては、一考の余地があるのではないでしょうか。

そこで、以下では専門医の転職上のメリットに焦点を当てて、専門医資格が医師の転職でどれぐらい重要であるのか、また専門医が重視される職場とそれほど重要でない職場の特徴について検証していきます。

専門医取得のメリットは?

専門医を採用することによる医療機関側のメリット

最初に、採用する医療機関(病院・クリニックなど)側にとって、専門医を採用することがどのようなメリットになるのかということについて以下に整理します。
 

①法律・診療報酬上はほとんどメリットなし

現行の法律で、専門医の有無によって可能な業務範囲が変わるという規定は特にありません。また、診療報酬に差が出ることはほとんどなく、非専門医が診察しても専門医が診察しても、原則その報酬は同じとなっています3。そのため、医師免許を取得し臨床研修を修了すれば、専門医でも非専門医でも制度上は大きな違いはないといえます。

②若手医師の招聘・指導におけるメリット

専門医が在籍していることは、若手医師の招聘や指導において医療機関側にメリットとなります。専門医や指導医の在籍は研修施設の要件となっているため、施設認定を受け、指導体制を充実させることで、医療機関での新たな若手医師の採用もしやすくなります。

③採用時の判断指標として参考にできるメリット

採用時に専門医の取得の有無を確認することで、一定の経験があるかどうか、技能・知識を身につけているかどうかの目安として参考にできるメリットがあります。ただし、「専門医をもっていれば一定の質は担保される」という考え方と、「ペーパー専門医は当てにならない」という考え方とがあり、医療機関によって参考とされる重要度は異なってきます。

④医療広告・患者さんへのアピール

専門医が在籍している場合、医療機関はその旨を看板やポスターなどの広告に載せることが可能となります。現在、58学会で56の専門医資格が広告可能となっています4。また、広告以外でも院内やホームページ上に掲示することで、患者さんに専門医が在籍していることをアピールすることもできます。
 

以上が、医療機関側で専門医を採用するメリットになります。転職時に専門医の有無によって待遇や勤務条件が変わる(あるいは変わらない)背景には、これらの事情があるものと考えられます。

専門医が重視される職場の特徴

以上を踏まえつつ、専門医がどれぐらい重要なのか、また特に重視される職場・重視されない職場の特徴について、実際にこれまで多くの医師の転職支援を行なってきたメディウェルのコンサルタント2名にインタビューを行ないました。まず専門医が重視される職場についてですが、結果としては以下のようになっています。
 

・規模の大きい病院

一般的に規模の大きい病院では診療科が細分化される傾向にあり、医師間での役割分担も増えてきます。そのため、専門性がより求められ専門医が重視される傾向にあります。

・研修施設としての体制の整備を目指している病院

研修施設としての認定をこれから受けようとしている、あるいは認定は受けているが体制を更に整えていきたい病院では、専門医や指導医の資格を有している医師を優先的に招聘する傾向にあります。

・急性期病院

急性期病院では、診察・検査・治療を比較的短期間のうちに集中的に行うため、専門的な診療能力が必要とされる機会が多くなります。その分、専門医のニーズも高くなる傾向にあります。
 

さらに、「専門医」をもっていることを技術・知識の保有レベルの指標として重視している職場では専門医がより重要とされるため、法人や経営者の方針によっても事情が異なってきます。

専門医資格必須・専門医優遇の求人例

専門医が重視される職場での実際の求人例としては、以下のようなものがあります(医師転職ドットコム掲載中の求人情報より、2017年6月12日時点)。

・専門医資格が必須となっている求人例(クリックすると求人詳細に遷移)

<神奈川県・小児科>

 ・年収1,400万円
 ・週4.5日勤務
 ・新規開設クリニックでの管理医師

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<埼玉県・放射線科>

 ・年収1,000~1,500万円(当直手当・残業代は除く)
 ・週4.5日勤務
 ・総合病院での読影業務

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<大阪府・整形外科>

 ・年収1,600万円~
 ・週5日勤務(当直無し)
 ・救急無し病院での外来・病棟管理・手術(週1日)

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・専門医資格により給与・手当などの条件が優遇される求人例

<静岡県・リハビリテーション科>

 ・年収1,300万円~
 ・週5日勤務(4日応相談、当直無し)
 ・リハビリテーション専門医研修施設

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<宮崎県・内科>

 ・10年目 年収1,600万円~
 ・週4日勤務相談可(当直有)
 ・地域医療支援病院

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<埼玉県・集中治療医>

 ・年収1,000万円~2,000万円(当直手当・残業代は別途)
 ・週5日勤務(当直月2回)
 ・ICU新設予定

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ここで気になるのは、専門医を優遇する求人の場合に収入など待遇面でどれぐらいメリットがあるかということですが、経験年数やその他の条件によっても変動するため一概にはいえません。しかし、あくまで目安として挙げると、おおよそ年収50~150万円程度のプラスになることが一般的です。

専門医が重要視されない職場の特徴

一方で、専門医の有無があまり重視されない職場の一般的な特徴としては、以下のようになっています。
 

・中小規模の病院・クリニック

中小規模の病院や一般のクリニックでは、内科系科目、外科系科目ともに診療科が分かれていないことが多く、その場合一般内科、一般外科として幅広く診療できることが求められます。そのため、専門医として特定の領域の症例に特化するという働き方にはなりづらく、専門医資格の有無もあまり重視されない傾向にあります。

・療養病院や老健・特養などの介護施設

慢性期の患者さんを扱う療養病院や老健・特養などの介護施設の場合、一般的な診療や全身の医学的管理が中心となります。専門性はあまり重視されないため、専門医資格の有無を問われることも少ない傾向です。
 

ただし、上記はあくまで一般的な傾向であり、中小病院やクリニックでも、専門病院や専門クリニックとして特定の領域での診療に特化している医療機関ではこの限りではありません。また、採用時に経験や人柄、能力などを総合的に判断する上で、専門医の資格をどの程度重視するかは、法人ないし経営者の方針によっても異なってきます。

専門医資格不問の求人例

専門医資格不問の求人が具体的にどのようなものなのか、以下にいくつか例として紹介します(医師転職ドットコム掲載中の求人情報より、2017年6月12日時点)。

 

<埼玉県・人工透析科>

 ・年収2,000万円~2,400万円
 ・週5日勤務(4日応相談)
 ・透析クリニックでの透析管理業務

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<兵庫県・整形外科>

 ・年収1,800万円~2,400万円
 ・週5日勤務
 ・クリニックでの外来・リハビリ指導

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<千葉県・総合内科>

 ・年収800万円~
 ・週5日勤務(当直月2回)
 ・総合病院での総合内科業務

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<埼玉県・緩和ケア>

 ・10年目 年収1,500万円~
 ・週4.5日勤務(当直無し)
 ・緩和ケア外来・病棟管理(未経験可)

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他にも特に求人票に明記していないものの、
療養型病院や老健などの多くの求人が専門医不問で勤務可能となっています。

 

まとめ

以上をまとめると、専門医資格は研修などに力を入れている急性期病院や大病院で重視される傾向にあります。しかし、専門医資格をもっていない場合でも、中小規模の病院や療養型病院のほか、経営方針として資格を重視していない職場などでは大きなデメリットになることは少ないといえます。

いずれの場合であっても、実際に転職先を検討する際には医療機関の状況や経営方針などを確認する必要があります。特に求人票に載っていない情報が重要になりますので、各地域の医療機関の状況に詳しいメディウェルのコンサルタントに聞くというのも一案です。

新専門医制度に際して、今後のキャリアについてお悩みの医師の方もいらっしゃると思います。そのような時に役に立つのは、新専門医制度の最新の情報や、他の医師がどうしているか、あるいは医療機関がどう対応しているかといった情報です。

医師転職研究所では、今後も専門医制度をはじめ、医師の納得のいくキャリアに役立つ確かな情報を発信すべく、医師の転職に関する調査・分析を行なっていきます。

 
参考資料
※1 日本医事新報社、2017年6月5日掲載記事
※2 厚生労働省『平成28年臨床研修修了者アンケート調査 結果概要』p30
※3 例外として、画像診断管理加算2の施設基準には右記の記載があります。「画像診断を専ら担当する常勤の医師(専ら画像診断を担当した経験を10年以上有するもの又は当該療養について、日本医学放射線学会が行う医師の専門性に関する認定を受けた当該療養に係る医師(以下「専門医」という。)に限る。)が1名以上配置されていること。なお、画像診断を専ら担当する医師とは、勤務時間の大部分において画像情報の撮影又は読影に携わっている者をいい、他の診療等を行っている場合はこれに該当しない。」(厚生労働省通知、保医発第305003号、平成22年3月5日)
※4 厚生労働省『医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について』平成25年5月31日