
2019年4月~5月にかけて実施した医師のアンケート(有効回答数1,580件)では、大学医局に所属したことのない医師が回答者の11%となっていました。
医局に入らなかったことで、医師は実際にどのようなメリット・デメリットを感じていて、そのデメリットの部分に対してはどのように対処しているのでしょうか?アンケートの自由回答をもとに、医局に属していない医師の仕事上の工夫について紹介します。
目次
- 1. 医局に入らなかった医師が医局に所属しない理由
- 2. <診療科別>医局に入らない医師の割合
- 3. 医局に属さないことで実際に得られたメリット
- 4. 逆に医局に属さないことで感じた苦労やデメリット
- 5. 医師として業務を行う上で工夫していること
- 5-1. 知り合った医師等との関係構築/情報交換
- 5-2. 診療上の取り組み姿勢/技術研鑽
- 5-3. 自己学習
- 5-4. 勉強会/学会に参加する
- 5-5. 人事関係の情報収集
- 5-6. 資格取得
- 5-7. 大学の同門会に入る
- 5-8. キャリアプランを明確にする
- 5-9. その他
- 6. まとめ
医局に入らなかった医師が医局に所属しない理由
そもそも、未だに多くの医師が大学医局に入る選択をしている中で、医局に入らなかった医師達はどのような理由からそのような選択をしてきたのでしょうか。
「人間関係のしがらみが面倒/不自由」という回答が最も多く、「メリット・必要性がない」、「医局人事などがあり勤務地を選べない」という回答が次いで多くなっています。
以下に、具体的な自由回答(一部)を紹介します。
人間関係のしがらみが面倒/不自由
-
- 医局の縦社会で様々な制約があり、勤務場所も自由に選べない。(30代男性・一般内科)
- 医局人事や医局内の慣習などが煩わしいから。(30代男性・精神科)
- 閉鎖的であるため(40代男性・循環器内科)
- 集団の一方向性が苦手だから(30代女性・麻酔科)
- 自分の意思に沿った自由なキャリアプランニングの阻害が懸念されたため。基礎研究分野に関心が無かったため。(30代男性・消化器内科)
- 群れるのが嫌い(40代男性・一般外科)
メリット・必要性がない
-
- メリットがない(30代男性・消化器内科)
- メリットを感じない(30代男性・救命救急)
- 必要性に乏しいと考えるから(40代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 当初より全く必要性を感じなかった(40代男性・小児科)
- 特にメリットがなかったから(50代女性・精神科)
医局人事などがあり勤務地を選べない
-
- 地方に配属されたくないから(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 自由に職場を選べない(50代女性・一般内科)
- 働く場所は自分で決めたいから(30代男性・小児科)
- 医局人事による異動がストレスと思ったから(50代女性・精神科)
入りたい医局がなかった/機会がなかった
-
- 自分が卒業したとき興味のある分野の医局がなかったから(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 卒後、配偶者の仕事の関係で、遠方の大学病院で研修をしましたが、希望科の医局があまり入りたくない雰囲気で、かつ近隣の医局も探す時間がなく、あるていど精神科の規模の大きい公立病院への就職が決まったため(30代女性・精神科)
- 出身大学の希望科の教授が評判が悪く、その教授の定年が近かったため入局せず様子を見ていたら医局に所属する必要性を感じなくなったから。(40代男性・麻酔科)
初期研修後に市中病院に就職しそのまま所属していない
-
- 初期研修、後期研修を一般市中病院で行ったため(30代女性・消化器内科)
- 臨床初期研修を地域医療機関の中で受けたかったのと医局独特のしがらみについていろいろと話を聞いていたから(50代男性・産科)
- 初期研修終了後大学病院ではない職場に入り勤務を続け、今さらという感じがする。(40代男性・人工透析科)
興味がなかった/魅力を感じなかった
-
- 医局に興味がない(30代男性・一般内科)
- 魅力がない(40代男性・消化器外科)
出身大学の制度上の都合(自治医大/防衛医大等)
-
- 防衛医大出身なので卒業と同時に医局ではなく自衛隊に所属になった(50代男性・整形外科)
- 出身大学の卒後修練コースがあり、それに乗る形で進路を選択したため(40代男性・その他診療科)
研修や臨床経験のため
-
- 一般病院で北米型ER研修を受けたかったから(40代女性・救命救急)
- 多くの症例の経験をつみたかったから(50代男性・脳神経外科)
自分の専門領域は医局でない方が良い
-
- 総合内科医としては大学病院に魅力を感じないため。(30代男性・一般内科)
- 美容は医局より民間病院で学ぶ方が早いかな、と思ってです。(40代男性・美容)
研究に興味がなかった
-
- 臨床をやっていたかったため(30代男性・在宅診療)
研究施設にいるため
-
- 研究機関で研究者として働いているため(40代女性・一般内科)
入ったら辞めるのが難しい
-
- 辞めたいときに辞められないことは火を見るよりも明らかだから。(40代男性・一般外科)
その他
-
- 科間の隔たりが好きではないため、幅広い診療の妨げとなるため。(30代男性・リウマチ科)
- 大学医局に入ると薄給だから(50代男性・精神科)
- 情報はネットで十分得られる(30代男性・麻酔科)
- 出身大学がある地元から離れてしまったから。いずれ地元に帰りたいので他地域で入局すると不自由そう。(29歳以下女性・救命救急)
<診療科別>医局に入らない医師の割合
医局に入らない理由を見ていくと、医師の専門とする領域の事情が関係している場合もあることが窺えます。そこで、診療科別での医局に所属したことがない医師の割合を調べたところ、下表のような状況となりました。
医局に所属したことがない医師の割合が最も高かったのは「救命救急」(36.0%)となっており、「上記以外(その他診療科)」(32.0%)、「精神科」(22.1%)、「一般内科」(21.7%)、「麻酔科」14.3%で次いで高くなっています。
一方で「耳鼻咽喉科」(回答数27件)、「乳腺外科」(回答数21件)では医局に所属したことのない医師は0名で、「皮膚科」(1.5%)、「放射線科」(1.9%)、「脳神経外科」(2.1%)も医局に所属したことのない医師の割合が低い結果となっています。
全体的に、医局に属したことのない医師は外科系の科目で少なく、内科系の科目で比較的多い傾向となっています。
医局に属さないことで実際に得られたメリット
医局に入ったことのない医師は、医局に属さないことで実際にメリットとして何が得られたと考えているのでしょうか?自由回答の結果は以下のようになりました。
「自由/好きな場所で好きなことができる」ことをメリットに挙げた医師が圧倒的に多くなっています。以下に具体的な回答(一部)を紹介します。
自由/好きな場所で好きなことができる
-
- 自分のキャリアや働く場所を自分で決めることが出来た。(30代男性・一般内科)
- 自由に勤務先を選べる。自由に科の選択ができる。縛られない。(40代男性・麻酔科)
- ライフステージにあった勤務形態や勤務先をえらべた。 (50代女性・一般内科)
- 自由に職場を選べた。大学特有のアカデミックな雑用に煩わされずに済んだ。(30代男性・精神科)
- 異動が自由。自分の思い通り。これ以上の自由はない。(40代男性・一般外科)
- 人事に左右されず、行きたい道に進める。給料も良い。(30代男性・消化器内科)
- 自由に勤務先を選べ、夫の転勤についていくことができた。(30代女性・腎臓内科)
- 自分の進路を自分の好きなタイミングで好きなように決められる。人に自分の人生を決められるのは納得ができなかった。(30代男性・救命救急)
- 自分で研修先を探し、納得のいく研修ができた。(30代男性・リウマチ科)
希望に反した異動がない
-
- 希望しない異動がなかった(50代男性・呼吸器内科)
- 関連病院にあちこち転勤させられることなく自らの希望でさまざまな研修を受けられた(50代男性・産科)
- 転勤がなかった(30代男性・消化器内科)
- 1つの職場に長期間いられる(40代男性・一般外科)
特にない
-
- 特になし(50代男性・一般内科)
- なし(50代男性・整形外科)
- 特にありません(50代女性・精神科)
症例・臨床経験を得られた
-
- スキルアップのために自分で選んだ病院で仕事をすることで、さらなる技術を磨けえた。(30代男性・循環器内科)
- 多くの症例を経験できている。(30代男性・心臓血管外科)
- 手術を早くから執刀できた(30代女性・形成外科)
給与が高い
-
- レジデント時や若手の時の給与が高い(40代女性・精神科)
- 後期研修医の時点から年収が高い。(30代男性・精神科)
- 給料が高い、休みが自由(29歳以下男性・一般内科)
キャリアやプライベートの希望を叶えられた
-
- 海外臨床留学ができた(30代男性・その他診療科)
- プライベートを優先できた(30代男性・消化器内科)
希望しない業務や拘束がなかった
-
- 基礎研究やアルバイトに時間を取られなかった(30代男性・在宅診療)
逆に医局に属さないことで感じた苦労やデメリット
医局に属さないことのメリットとして多くの医師が「自由」を挙げていますが、逆にデメリットや苦労としてはどのようなことが挙げられるのでしょうか?自由回答では以下のような結果となりました。
「特にない」という回答が群を抜いて多くなっています。医局に所属したことのない医師は、医局に入らないことで「自由」というメリットを享受しつつ、デメリットも「特にない」と考えている場合が多く、医局に所属していない現状をプラスに捉えている傾向があることが窺えます。
一方で、医局に属さないことの苦労やデメリットに関しても回答がありました。以下に個別の自由回答の内容(一部)を紹介します。
特にない
-
- 特になし(50代男性・一般内科)
- 全くないです(40代男性・精神科)
- なし。専門医も最短で取得し、学会発表や論文作成だけではなく、他施設研究も行っており、なんら不都合を感じていない。(30代男性・救命救急)
- あまりない(30代男性・心臓血管外科)
- 特になし(40代女性・一般内科)
- ない。あえて言うなら学位を取るような環境でなかったことくらい(40代男性・一般内科)
- ありません。(29歳以下男性・麻酔科)
バイト先・就職先探しでの苦労
-
- 割りの良いバイトは医局派遣のケースがある(30代男性・麻酔科)
- 勤務先に関する不安が常につきまとっていた(40代男性・腎臓内科)
- 医局が診療科の医師枠を抑えているので入職できない(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- バイト先の病院の実情などを知るのが難しい。(30代女性・消化器内科)
- 後期研修を終えた後の再就職時に多少苦労した。(30代男性・リウマチ科)
医局優遇の環境での苦労/世間的な風当たり
-
- 医局志向の強い職場ではややアウェー感を感じる。(30代男性・一般内科)
- 同じ職場でも、医局人事の人と、自分みたいな医局に属さない人間では扱いに差があることを実感した。(30代男性・精神科)
- 職場での立場が上に上がらない。一つでも専門と言える領域があればいいが私の場合は広く浅くなら全般やれるが専門性がないと思った。総合消化器科医みたいな感じになってしまった。ほんとはもっと上部をやりたかったが症例を大学上がりの医師にとられてしまい自分はあまりできなかった。大学にいっておけば、、、と思った(30代女性・消化器内科)
- 集団からつまはじき(40代男性・整形外科)
- 偏見はあり。(50代男性・消化器内科)
資格や学位の取得が難しい
-
- 学位、専門医などとりにくい(50代男性・一般内科)
- ICUや集中治療・緩和に対して診療機会が乏しく、専門医試験に対する知識が身につかない(30代男性・麻酔科)
- 学位が取れない。(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 自力で専門医を取らないといけない。(30代女性・腎臓内科)
人脈・交友関係が少ない
-
- 大学時代の人脈と距離が遠くなってしまった。(30代男性・消化器内科)
- 学会の時に集まりがないので寂しい(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 交友関係が医局に属しているほうが広い(40代男性・循環器内科)
- 仲間が少ない(50代男性・消化器外科)
指導をあまり受けられない/情報が得にくい
-
- 指導が少ないこと(29歳以下男性・一般内科)
- 系統立てた作法を学ぶ機会がないので個人的に教えを乞うたり見学したりしなくてはならない。新しいことを導入する際に見よう見まねにならないように配慮が必要。(40代男性・一般外科)
- アカデミックな情報が得にくい。(30代男性・精神科)
研究や論文作成、読解などの経験を得にくい
-
- 留学や研究には不利(40代女性・救命救急)
- 臨床研究や論文作成、高度医療に実際に触れる機会が若干少なかったのと医局からの医師支援が得られにくかったが大きなデメリットは感じていない(50代男性・産科)
医局に属することによる支えがない
-
- 万一の際のバックアップのなさは常に付きまといます。(40代男性・一般内科)
- 帰属すべきところがあるのは、心理的支えになると思う(30代男性・消化器内科)
キャリア形成の必要性
-
- 自分でキャリアを考えないといけない(30代男性・小児科)
- 将来の進路を今後、自分で決めていかければならない。また、病気になったりしたらどうなるのかは心配です(30代女性・精神科)
学会入会時の苦労
-
- 学会に入るのに苦労した(30代女性・形成外科)
医師として業務を行う上で工夫していること
医局に属さないことのデメリットや苦労は「特にない」が回答として最も多いとはいえ、個別の自由回答では、医局での繋がりや経験・情報が得にくいなど、具体的にデメリットを感じている場合も見受けられます。
このデメリットの部分に対して、医師はどのように対処・工夫しているのでしょうか?自由回答の結果は、以下のようになりました。
上記はデメリットや苦労について「特にない」と考えている医師も含まれているため、やはり対処・工夫でも「特にない」が最も多くなっています。
「特にない」を除くと、「知り合った医師等との関係構築/情報交換」、「診療上の取り組み姿勢/技術研鑽」、「自己学習」といった工夫に関する回答が多くなっています。
以下、それぞれの対処・工夫の具体的な自由回答(一部)を紹介します。
知り合った医師等との関係構築/情報交換
-
- 勤務先や研究会などでご一緒した先生方と情報交換を行うようにしている。(50代女性・一般内科)
- 同じ病院にずっといるので人間関係を円満にする。(29歳以下男性・麻酔科)
- 同級生等と連絡をとり情報を得るように積極的にしている(30代男性・精神科)
- これまであった先生方との連絡が今後もとれるように連絡先を交換したり、時々質問したりしている(30代女性・麻酔科)
- 大学の先輩後輩同級の繋がりは大事にしてます。(40代男性・一般内科)
- 医局から来ている先生とも仲良くして、関係性は構築する。繋がっていることで、紹介などしやすくなる。また、医局のデメリットにこちらからは触れない。(30代女性・一般内科)
- 地域の医師と連携を保つ努力をすること(50代男性・脳神経外科)
診療上の取り組み姿勢/技術研鑽
-
- 患者さんを誰よりもしっかりとみる。他の医師とのコミュニケーションをなるべくとるようにする。(30代女性・一般内科)
- 民間の市中で浴びるように症例をこなしたこと。(40代男性・精神科)
- 診察は誰にも負けないようにしている(40代女性・婦人科)
- 所属している同期には負けないように何事も取り込んだつもりです。(40代男性・一般外科)
- 患者さんのためにできること、したいことをするだけ。(40代男性・麻酔科)
- 新しい技術を積極的に取り入れる。(50代男性・一般内科)
自己学習
-
- 自己学習は必須。(30代男性・精神科)
- 論文を読む、医局に所属している友人と時々会う(29歳以下男性・一般内科)
- 医療の前線に遅れないようによく雑誌を読む(50代男性・消化器外科)
- できるだけ医療知識をアップデートするように努力している(40代女性・一般内科)
- 常に必死に勉強していた(40代男性・腎臓内科)
勉強会/学会に参加する
-
- メーカー主催の勉強会に参加、特に大学病院医師が主催のもの(40代女性・精神科)
- 情報は疎くなりがちなので学会などまめに出席して情報を得たりしている。(40代男性・麻酔科)
- アンテナを張り巡らせアップデート、人事交流、学会発表を行う(40代女性・救命救急)
- 医師会などは出席するようにしている(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
人事関係の情報収集
-
- 人事関係の情報をできるだけ得るようにしている(40代男性・小児科)
- 常により良い労働条件の病院を探している(30代男性・麻酔科)
資格取得
-
- 悪い評判が立たないようにする。専門医の取得を目指す。研究会などで人間関係を少しでも広げる。(30代男性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- 専門医を取る 知識の幅を広くしてオーフマぃティにできるようになる。 消化器科の場合は大学にいくと上部、下部、肝、胆膵などの専門領域に別れるため、それ以外は見れなくなるのが欠点。私の場合はそのしばりがないぶん広く診療ができるようになった方がいいと思い実践している(30代女性・消化器内科)
大学の同門会に入る
-
- 医局には所属していないが地域の大学の同門会に入れてもらっている(50代男性・整形外科)
キャリアプランを明確にする
-
- キャリアプランを明確にする。常に次のプランを考えておく。どこにいっても通用するブランド力をある程度頼っていく。(29歳以下女性・救命救急)
その他
-
- 極力大学と関わらない職場で働く。(30代男性・精神科)
- 我慢(60代男性・健診・人間ドック)
- 臨床研修指定病院など、教育をしっかりやっている病院で働く(40代男性・一般内科)
まとめ
医局に属さない医師はまだ少数派で「アウトロー」扱いされることもありますが、上記のアンケート回答を見ると、医師達は医局に入っていないことを前向きに捉えており、様々な対策や工夫を凝らし、医師としての自分を磨きながら勤務していることがわかります。
診療科や地域によっては一概には言えないものの、「医局に入らない」ことも今後は医師のキャリアにおける有力な選択肢として考えて良いのかもしれません。