雇用ニーズも将来性も抜群のリハビリ科が医師”不足”NO1の理由とは?

リハビリ科医師

 
最近よくニュースとなる、寝たきりや認知症の患者を支える家族の介護疲れによる自殺や殺人事件。「単に長生きする」だけでなく、より「健康に長生きする」ことが社会的に重要視されるようになってきました。

実際、「健康寿命」というキーワードでのGoogle検索回数の推移を過去10年で見てみると、下のグラフのように右肩上がりで増えています。より多くの人にとって「健康に長生きする」ことが注目度の高いテーマになってきていることがうかがえます。


 

この「健康寿命を延ばす」カギとなるのがリハビリテーション医療です。「リハビリテーション」と聞くと訓練というイメージが強いですが、元々は「再び(re) 適した(habilis) 状態になること」という意味のラテン語からきています。

近年では特に、健康寿命を延ばす観点から、また医療の効率化という医療政策上の観点から、リハビリテーション医療への期待が高まっています。加えて高齢化に伴う患者数の増加もあるため、リハビリへのニーズはますます増えてきています。

一方で、リハビリテーションの担い手となる医師は大きく不足しており、若手医師からの人気も高いとは言えない状況にあります。ニーズもあり、将来性も高い診療科でありながら、医師があまり増えないのはどのような背景・理由からなのでしょうか?以下に現状を整理しつつ、リハビリ科を目指す医師にとっての障壁について見ていきます。
 

 

医療費削減にも?リハビリテーション領域で医師に期待されている役割

リハビリテーション領域で期待されている医師の役割としては、患者の「健康寿命を延ばすこと」がまず挙げられ、その他には医療費削減の効果も期待されています。

健康寿命に関しては、疾患の治療と合わせてリハビリを進めていく期間(急性期)、リハビリによる機能回復が治療の中心になる期間(回復期)、日常の生活機能を維持するためにリハビリを行なう期間(生活期)があり、それぞれの場面での役割を期待されています。

最近では手術前のリハビリ的な介入が合併症を減らすといった論文も出ており[1]、リハビリ科医への期待も高まっています。

医療費の削減という面では、リハビリの介入によって入院期間の短縮・早期の社会復帰を図ることで、医療費をなるべく減らしたいという国の狙いがあります。そのため、厚生労働省が推し進める回復期リハビリテーション病棟(リハビリを集中的に行なうための病棟)も急速に増えてきています。


回復期リハビリテーション病棟の届出数推移

個別事項(その5:リハビリテーション)」中医協 総-3, 2017年10月25日, 10ページ.

 

最近では、病床数の面では整備されてきたということから、今後は「リハビリでどれだけ患者の病態が良くなったか」といったリハビリの効果・質の評価をより重視するようになってきています[2]

そのため、リハビリテーション領域では、今後より専門的な知識・技能を有する医師が求められるようになってきているといえます。

最も医師不足!?若手医師が増えないリハビリ科の現状

期待される役割が高まる一方で、リハビリテーション科を専攻する医師は大きく不足している状況となっています。2015年の日本医師会の調査では、必要医師数でリハビリテーション科が最も医師の不足している科という結果となっています。


診療科別必要医師数

日本医師会 病院における必要医師数調査」日本医師会総合政策研究機構, 2015年7月, 20ページ

 

ただし、これだけのデータでは、「ニーズが高まってきているから相対的に医師が不足しているだけ」という可能性もあります。そこで、2016年の厚生労働省の調査[3]を確認したところ、リハビリテーション科医師の平均年齢は53.9歳と、医師全体の平均である49.6歳より高いことがわかりました。更に年齢別の分布では、下図のようになっています。


リハビリテーション科医師の年齢別割合

20~30代の若手でリハビリテーション科の医師が顕著に少ない傾向が確認できます。20代については初期研修中の場合もあるため少なく出るのは当然としても、30代でリハビリテーション科を専攻する医師が少ないというのは、ニーズの高まってきている診療科として将来が危ぶまれる状況にあると考えられます。

「あんなもの医者がやる仕事じゃない」リハビリ科に対して医師が抱くイメージ、感じる障壁とは?

若手でリハビリテーション科を選ぶ医師が少ない背景には何があるのでしょうか?リハビリ科に対する医師のイメージはどのようなもので、専攻するにあたってどのような障壁を感じるのでしょうか?

脳神経外科からリハビリテーション科に転科した石川誠先生は、転科当時の状況を振り返って以下のように語っています。

”当時は脳神経外科の仲間や先輩から「リハビリなんかで飯が食えるわけがないし、あんなもの医者がやる仕事じゃない」とぼろくそに言われました。奇人変人扱いです。その頃、リハビリテーション部門は非採算部門の代表格で、「リハを充実させると病院は経営難になる」とまで言われていました。”

 

これは1980年前後の話ですので、当時よりも今はリハビリテーション医の重要性は認識されてきているはずですが、それでも「リハビリテーション科の医師を下に見る」風潮は完全には消え去っていないと考えられます。

他にリハビリテーション科に対しては、「マニアック」「楽な診療科」「何をしているかわからない」「整形外科もしくは脳神経外科・内科からの転科先」などのイメージを抱いている先生方もいらっしゃいます。

このようなイメージや、他の診療科では先輩医師の話を聞きやすいのに対してリハビリテーション科では年齢の近しい先輩医師が少ないといった事情もあって、実質的に選ばれにくくなっているのかもしれません。

リハビリ科医師の特徴とその魅力とは?

それでは、リハビリ科医師の特徴やその魅力としてはどのようなことが挙げられるのでしょうか?

下図は、医師に対するアンケートの診療科別の結果で、専門医以外に自身のキャリアや他の医師を評価する上で重視していることについて複数回答で尋ねたもので、赤色 > 白色 > 青色の順に該当者が多くなっています。


診療科別でのキャリアにおける重要項目

 

他科と比べると、リハビリテーション科では「医師以外のスタッフからの評判」を重視している傾向が見られます。理学療法士(PT)や言語聴覚士(OT)など、医師以外のスタッフの活躍が多いリハビリ科では、多職種での連携によるチーム医療がより重視される傾向にあることが考えられます。

その他、リハビリ科の魅力としては以下のようなことが挙げられます。

将来的な需要が高い

既に紹介させていただいた通り、リハビリ科は将来的にも需要が高い診療科です。現在は若手医師にとって「マニアック」なイメージがあったとしても、今後はより活躍しやすい分野になってくると考えられます。

様々な疾患の患者を診られる

リハビリテーション科は特定の臓器や疾患を対象としたものではなく、患者の病態に対してアプローチを行うため、様々な疾患の患者を経験できるとともに、今後、疾病構造が変化したとしても必要とされる分野といえます。

救急や急変などによる夜間対応の負担は少ない

回復期リハビリテーション病棟を担当する場合、救急や急変などによる夜間対応の負担が少なく、夜間帯の休みは取りやすいといえます。ただし、やはりリハビリ科では他科と連携していきつつチームをまとめていくマネジメント力が求められ、適正もあるため、「リハビリ科=楽」というイメージで捉えてしまうと実際の勤務とギャップを感じるかもしれません。

患者の人生を前向きに変えられる

先ほど紹介した石川誠先生は、リハビリテーション科の魅力について、患者の「人生を前向きに変えられる」ということを挙げています。

”リハビリテーション医は「人がその人らしく生きること」をサポートできる仕事であり、人間が好きな人に向いています。そして、ただ単に“よくする”のではなく、リハビリを通し、その人の人生を前向きに変えられる医療でもあるのです。”

 

リハビリテーション科の医師の勤務については実際に見聞する機会が少なく、イメージで捉えてしまいがちなところがありますが、将来より必要とされる分野でもあり、上記のような魅力もあります。

リハビリテーション医療への関心が高まっていくことで、医師にとって、リハビリの現場がより魅力的な職場になっていくと良いですね。

 
<注>
[1] “Preoperative physiotherapy for the prevention of respiratory complications after upper abdominal surgery: pragmatic, double blinded, multicentre randomised controlled trial”, BMJ 2018; 360: j5916.

[2]平成30年度診療報酬改定の概要 医科Ⅰ」厚生労働省, 2018年3月5日資料, 28-32ページ.

[3]平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」厚生労働省, 8ページ.