2004年の新臨床研修制度以降、大学医局に属する医師の割合は少なくなり、医局人事を離れて転職することも一般的になってきました。その一方で、医師の転職市場の実態についてはまとまった情報が少なく、意外と知られていないのが現状です。そこで、以下では当社および厚生労働省などのデータを用いて整理していきます。
<調査の要点>
- ・病院の医師の採用方法で2番目に多いのが紹介会社を通じた採用となっており、病院の約半数が紹介会社を利用している。
- ・医師の転職市場の規模は平成27年度で約154億円となっている。
- ・都道府県別で医師の求人数は異なり、要因としては医療機関数・医師の充足状況、医局派遣が挙げられる。

目次
採用側からみた医師の転職市場の状況
医局人事以外の方法での医師の転職はどれぐらい一般的になってきているのでしょうか?これに関しては、採用する病院側のデータが参考になります。日本医師会が2015年に実施した調査※1では、病院が医師の採用でよく利用する方法について下図のような結果が出ています。
最も多いのは、「大学(医局等)への依頼」となっており、全病院の75.1%において主要な採用方法として利用されていることがわかります。このことから、未だに大学医局の人事で異動する医師も相当数いると考えられます。
しかし、「民間職業紹介事業者」(紹介会社)を主な採用手段として挙げている病院も全体の46.9%(全病院の約2分の1が利用)を占めて2番目に多くなっており、紹介会社を利用した医師の転職も全国的に広がってきているといえます。また当社の所感として、最終的な採用には至っていなくとも紹介会社を利用して具体的な医師の紹介を受けている病院は相当数あると認識しており、その場合も含めると、医師の紹介会社を利用している病院は更に多いと考えられます。
また、医療機関の「直接採用(個人的に依頼、縁故)」も44.2%と3番目に多く、知人を通じるなどして直接医療機関へ応募し転職する医師も比較的多いといえます。
医師の転職市場の規模はどうなっているのか?
それでは、医師の転職市場はどのぐらいになっているのでしょうか?厚生労働省の有料職業紹介に関する報告資料※2によれば、平成27年度で有料職業紹介(紹介会社)を通じた場合の医師の常用就職件数が20,157件となっています。
これは、4ヶ月以上の有期雇用もしくは無期雇用の就職件数全体の数字となっているため非常勤も含まれますが、医師数が約31万人という中で年間約2万件もの有料職業紹介の利用があるというのは非常に多いという印象を受けます。
また同じ資料で、有料職業紹介事業の手数料徴収の合計金額は、平成27年度で約154億円という結果となっています。これは、先の20,157件の常用就職件数に加えて、300,196人日の臨時日雇就職延数(スポット勤務)も加えたものになっています。
都道府県別での医師の転職市場は?
都道府県別の医師の転職市場はどのようになっているのでしょうか。参考として、メディウェルの医師転職ドットコムで掲載している常勤求人の都道府県別の求人数(2017年5月1日現在)では下表のようになっています。
全国で最も求人が多いのは東京都となっており、以下、大阪府、埼玉県、福岡県、神奈川県の順に多くなっています。一方で少ないのは徳島県、福井県、鳥取県、青森県、島根県の順となっています。
都道府県別の求人数の違いは何によるのでしょうか?大きく要因として考えられるのは、都道府県別の①医療機関数、②医師の充足状況、③医局派遣の状況が挙げられます。順にその状況を確認していきましょう。
都道府県別の医療機関数
都道府県別の医療機関数について、厚生労働省の調査※3によると、平成29年2月末現在の状況は以下のようになっています。
診療所に関しては個人で開業しているものも多く、そのような診療所で常勤医師を募集することは比較的まれといえます。そのため、求人数との関連では主に都道府県別の病院数と照らし合わせることが望ましいと考えられます。
試しに前掲の求人数と病院数で相関係数を調べてみると、0.92と強い相関関係にあることがわかりました。当然の結果ではありますが、病院数が多いところで医師の求人数も多くなる傾向にあるといえます。
都道府県別の医師の充足・不足状況
都道府県別での医師の充足・不足状況については、厚生労働省が2014年に調査した人口10万人対医師数※4を参照します。これは人口10万人当たりの相対的な医師数を都道府県別に比較したものとなっています。状況としては下表のようになっています。
人口に対して医師数が相対的に多いのは、京都府、東京都、徳島県の順となっており、少ないのは埼玉県、茨城県、千葉県となっています。埼玉県では求人数が多く徳島県では少ない傾向にありましたが、これは病院数だけでなく、医師の充足状況の違いが求人数に影響していると考えられます。
都道府県別の求人数を病院数で割った値と人口10万人当たりの医師数で相関を取ると、-0.44と負の相関があるという結果となりました。このことからも、医師の充足状況が求人数に影響していることがわかります。
都道府県別の医局派遣状況
医師の求人数を左右する3つ目の要素として、医局派遣の状況が考えられます。一般的に医局からの派遣が多い地域では紹介会社に求人を依頼する可能性は低くなり、派遣が少ない地域では依頼する可能性が高くなると想定されます。これについて、既出の日本医師会の調査資料によると、大学医局に医師の採用を依頼している病院の割合は以下のようになっています。
医局へ医師の派遣を依頼している病院の割合は、島根県、福井県、岐阜県で高く、沖縄県、宮崎県、静岡県で低くなっています。都道府県別の求人数を病院数で割った値と、医局へ医師の派遣を依頼している病院の割合で相関を取ると、-0.25という値となりました。はっきり相関性があるとはいえない状況です。
しかし、長野県や沖縄で病院数の割に求人数が多いことは医師の充足状況だけでは説明できず、大学医局に医師の派遣を依頼している病院の割合が少ないことが影響していると考えるのが自然であると考えられます。
以上、都道府県別の医師の転職市場についてみてきましたが、地域別の求人数は、医療機関数、医師の充足率、医局派遣の状況によって大きく変わってきます。ただし、これは現状を把握するための指標であるため、将来的にどの地域でどのようなニーズが多くなるかについては、地域医療構想や専門医制度など、制度変更も含めた動向を押さえていく必要があります。
まとめ
以上より、紹介会社を通じた医師の転職は、医局人事に次いで多くなってきています。都道府県別での医師の求人数は病院数のほかに医師の充足状況や医局派遣の状況が関連していますが、現状で医局からの派遣を依頼しつつも採用に困っている病院が多いということを考慮すると、今後も紹介会社の利用拡大の余地はあると考えられます。
メディウェルでは、2004年よりこれまで多くの医師の転職支援と医療機関の採用支援を行なってきました。医師にとっても、医療機関にとっても、医局人事以外に選択肢が広がっていくことはメリットになると考えています。今後とも、より多くの「納得のいくキャリアと満足のいく採用」を実現できるよう、内容にこだわったサービス提供を進めてまいります。
参考資料
※1 日本医師会総合政策研究機構『日本医師会 病院における必要医師数調査』2015年7月
※2 厚生労働省『平成27年度職業紹介事業報告書の集計結果』
※3 厚生労働省『医療施設動態調査(平成29年2月末概数)』
※4 厚生労働省『平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況』