2020年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、コロナ対応で医師など医療従事者のリスクや負担が増える一方で、医療機関への受診控えなどによる患者数の減少も大きかった年でした。
そのような中、医師の収入にも変化はあったのでしょうか?2020年12月に実施した医師1,869名のアンケート調査をもとに見ていきます(回答者の属性)。

<結果の概要>
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- 2020年時点での医師の平均的な年収は1,400万円~1,600万円
- 2019年と比較すると、2020年では年収がやや低下している傾向
- 主たる勤務先でも副業・アルバイトでも、収入が「減った」という回答が「増えた」を上回る結果
- 新型コロナウイルスの感染拡大が収入に及ぼした影響は「あったと思う」が最多
- 収入を改善する取り組みとして医師が挙げたのは、副業、勤務先の確保や資産運用など
目次
調査した医師の勤務状況
今回調査した医師の勤務状況は下記のようになっています。
主たる勤務先
主たる勤務先では大学病院以外の病院が56%と最も多く、次いでクリニック勤務医(17%)、大学病院(15%)、クリニック開業医(5%)の順に多くなっています。以下、休職中の1%(27件)以外の回答について詳細を見ていきます。
主たる勤務先への勤続年数
主たる勤務先への勤続年数では、1年未満が24%と最も多い一方で、10年以上という回答も17%と多くなっていました[1]。
副業・アルバイト勤務の状況
副業・アルバイト勤務では、71%の医師が「行っている」状況となっています。
2020年の医師の年収の状況
休職中を除く医師1,842名に現在の年収(アルバイト・副業収入込み)を聞いたところ、結果は下表のようになりました。
年収1,400万円~1,600万円が最も多く、年収の中央値も年収1,400万円~1,600万円の範囲(1,500万円)となっています。年収1,000万円~年収2,000万円の間に全体の半数以上の医師が属している状況です。
2019年と2020年での医師の年収比較
今回の医師の年収を、2019年8月に同条件で調査した際の年収と比較すると、下表のようになっています。
年収帯のボリュームゾーンは一見すると変わらないように見えますが、年収1,400万円未満の割合は34.3%から38.2%と増加している一方、年収2,000万円以上の割合は29.8%から27.6%と微減しており、全体としての医師の年収はやや低下傾向にあることが読み取れます。
「減った」が「増えた」を上回る―収入の変化に対する医師の回答
2020年と2019年の収入の変化について、医師自身はどのように認識しているのでしょうか?まず、主たる勤務先での医師の収入の変化については、下図のようになりました。
主たる勤務先での収入
主たる勤務先での収入は「変わらない」が46%と最も多く、次いで「減った」が33%、「増えた」が21%という状況です。
これはあまり変化がないようにも映りますが、勤務医の場合、基本的に収入は安定しているということと、医師年数に応じて収入が増えていく傾向にあることを加味すると、「減った」が「増えた」よりも上回るというのは、通常よりも厳しい収入状況にあったと考えられます。
上記について、転職による一時的な変動による影響を除くため勤続年数2年以上に絞ってみると、下図のようになりました。
勤続2年以上では、より顕著に「減った」が「増えた」を上回る結果となっていることが見て取れます。
さらに、副業・アルバイトについても調査したところ、下図のようになっていました。
副業・アルバイト収入
副業・アルバイト収入では、「変わらない」が43%、「減った」が37%、「増えた」が20%という結果です。主たる勤務先と比べ変動しやすいため「変わらない」の割合は減っていますが、全体として「減った」が「増えた」を上回る状況は同様となっています。
新型コロナウイルスの医師の収入への影響、「あったと思う」が最多
2020年の医師の収入状況に、新型コロナウイルスの感染拡大やそれに伴う自粛の影響はあったのでしょうか?主たる勤務先と副業・アルバイトそれぞれについて見ていきます。
主たる勤務先の収入への新型コロナの影響
主たる勤務先では、収入への新型コロナの影響が「あったと思う」が最多の41%で、次いで「どちらかといえばあったと思う」が22%となっています。
これを主たる勤務先での収入が「減った」と回答した医師に絞ると、下図のようになりました。
「あったと思う」という回答は65%まで増加し、「どちらかといえばあったと思う」も21%となっています。合計すると、収入が減った医師のうち86%が2020年の収入減の要因に新型コロナの影響があったと考えている状況です。
副業・アルバイト収入への新型コロナの影響
副業・アルバイト収入においても、新型コロナの影響が「あったと思う」とする回答が最多の44%となっており、次いで「どちらかといえばあったと思う」が20%となっています。
こちらについても副業・アルバイト収入が「減った」医師に絞り込むと、下図のようになっていました。
新型コロナの影響が「あったと思う」という回答は56%まで増え、「どちらかといえばあったと思う」も20%となり、合計76%の医師が、副業・アルバイト収入の減少の要因に新型コロナの影響を考えている状況となります。
上記をまとめると、主たる勤務先においても副業・アルバイトにおいても、医師の収入への新型コロナの影響はあったと考えている医師が最多となっており、収入が減少した医師に限ると、3/4以上の医師が収入減への新型コロナの影響を認識している状況となっています。
医師が自身の収入を改善するために取り組んでいること
収入に対して新型コロナの影響を受けていると考える医師が多い中、医師が自身の収入を改善するために取り組んでいることとしてはどのようなことがあるのでしょうか?医師からの自由回答(一部)を紹介します。
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- 今まではスポットバイトだったが定期非常勤職を検討中 (50代女性、健診・人間ドック)
- 産業医、講演増加を目指す (50代男性、消化器外科)
- 定期アルバイトのコマ数の増加 (50代男性、循環器内科)
- 複数の非常勤を掛け持ちしているが、自分がそのクリニックに取って必要な人材であり続けられるよう勤務態度、実績、知識の蓄積に努めている。 (40代女性、形成外科)
- 非常勤勤務なのですが、コロナ自粛で患者が減ったので一度契約中断、お休みになりました。収入が減るので、別のクリニックの非常勤を増やしました。 (30代女性、一般内科)
- 転職、独立系産業医の開始 (40代男性、心療内科)
- 開業準備および勤務形態を変えての転職活動 (40代男性、消化器内科)
- 転職を検討しており、求職活動中です。 (30代女性、美容)
- いつも仕事を探しています (40代男性、麻酔科)
- 来年度に向けて、常勤・非常勤含め勤務先を見直している (50代女性、一般内科)
- 不動産投資やiDeCo、積み立てNISAで資産運用している。所得を減らすよう取り組んでいる。 (30代男性、その他診療科)
- 投資信託のインデックス投資、副業としての保険会社顧問医 (30代男性、整形外科)
- 投資信託での資産運用 (30代男性、腎臓内科)
- 株式投資による資産運用 (30代女性、その他診療科)
- 株式投資や金利の確認、ideco活用 (40代男性、耳鼻咽喉科)
- 節税と節約を意識している。 (30代男性、眼科)
- 特になし。倹約を心掛けている。 (50代女性、一般外科)
- 日常生活費の節約に努めている程度。 (60代男性、一般内科)
- ふるさと納税などの税金対策 (50代男性、一般内科)
- ふるさと納税やNISAなどでの節税 (40代男性、病理診断科)
- 入院を積極的にとる、紹介率増やす (30代女性、呼吸器内科)
- 保険外診療の研鑽や導入 (50代男性、皮膚科)
- 現在のクリニック経営の改善。 (50代男性、消化器内科)
- たくさん 手術を いれる (50代男性、整形外科)
- 看板設置などの宣伝効果 (40代女性、眼科)
- 常にスキルアップをしている (50代男性、その他診療科)
- やれる仕事は何でもやろうと考えた。新たな資格を取る準備をした。 (50代男性、精神科)
- 医師としての能力を上げるのみ (30代男性、在宅診療)
- 資産運用では失敗してきているので本業の医療関連の知識の研鑽には励むしかない (40代男性、一般内科)
- 技術習得 経営学資格取得 資産運用 (40代男性、整形外科)
- 開業に興味はあるが、現時点では特になにもしていない (40代男性、その他診療科)
- 特に何もしていないです (50代男性、整形外科)
- 大学から減給の通知があったのみで、対応していない。 (40代男性、病理診断科)
- 特記すべきことはありません (60代男性、脳神経外科)
- 特に取り組んでいない。 (40代男性、消化器外科)
- M3、日経メディカルなどのポイントを貯める。 (50代男性、リハビリテーション)
- 開業準備、事業継承など考慮しています。 (40代男性、小児科)
- 行動をおこしているわけではありませんが、オンライン診療をメインにした開業ができないかと思っています。 (50代女性、小児科)
- 不動産業でリスクヘッジしています。 (50代男性、麻酔科)
- 朝始発で出勤し帰りが夜の8、9時になる勤務でも一切残業代も出ないし、給料も上がらない。交渉してもかわされる。副業しようとしても妨害される。子供を進学させられないくらい困窮している (40代男性、健診・人間ドック)
副業・非常勤先の確保・増加
常勤先の変更
資産運用
節税・節約
勤務先での収益増加
自己研鑽
特になし
その他
現在の医師の収入事情や今後の見通しに関する自由回答
最後に、個人のみならず医師全体における現在の収入事情や今後の見通しについて医師からの意見や感想を求めたところ、以下のような自由回答がありました(一部紹介)。
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- 医師の収入は今後間違いなく減少してくると思われるため、出来るだけ今のうちに働いておきたい。 (50代男性、循環器内科)
- 保険点数次第と感じており、今後、国の財政状況の悪化とともに、医師の収入も(物価上昇率を加味すると)減少に転じるものと推測しています。 (40代男性、病理診断科)
- 患者の減少と医師増加によって医師の収入は減ると思います。 (40代男性、呼吸器内科)
- 収入は今後減少すると思われる (60代男性、皮膚科)
- 医師の収入は低下していくと思っています。 (50代女性、整形外科)
- メインは少し減るので副業で補う (40代男性、健診・人間ドック)
- 主の収入は頭打ちなので副収入を尽力 (50代男性、消化器外科)
- 不動産投資など、医業以外での収入増を心掛けている (30代男性、産科)
- いきなり収入がなくなることも考えなくてはならないと感じた。副業である程度稼ぐ必要がある。 (20代女性、耳鼻咽喉科)
- 医師も第二の収入源を確保しておくことが求められる。 (60代男性、婦人科)
- コロナで政府の借金増加すると、今後税金が増々高くなると思う。 (60代男性、形成外科)
- 税制度も変わり、手取りが減ると思う (30代男性、呼吸器内科)
- 所得税が高いため、勤務医は儲からない。 (30代男性、リウマチ科)
- 増税が心配なのでできるだけ資産運用を行っている (40代女性、その他診療科)
- 税率は重くのしかかり、収入は政府の配分によってコントロールされるため見通しは暗いと言わざるを得ない (30代男性、呼吸器内科)
- コロナウイルス感染症流行に伴い医師の収入が減少しております (40代男性、精神科)
- 新型コロナのため仕事が減る可能性はあると思う (50代男性、健診・人間ドック)
- コロナの終息に2ー3年かかるかもしれないが、終息後はほとんど元に戻ると思う。 (60代男性、一般内科)
- クリニックの受診患者が減ってるので、なかなか給料が上がらない (30代女性、呼吸器内科)
- 今後は新型コロナウィルス感染症のため、受診抑制が続き、収入減少は続くと思う (60代女性、眼科)
- コロナの影響で病院の面会制限が増え、それを理由に在宅に戻る患者さんが多くなりました。そのため、在宅診療としては対応する患者数がわずかですが増えた印象で、私自身の収入としては今年の方が増えました。 (40代女性、在宅診療)
- 収入事情は有事において診療科で大きく左右されると実感した。産婦人科にはコロナの影響による収入減はあまり関係がなかったように思う(検診施設以外は)。 (30代女性、産科)
- 精神科病院は、直接にはコロナの影響は受けていない (60代男性、精神科)
- 産業医はこれまでいい副収入であったが、このところ値崩れしており、今後オンライン化が加速されてさらに悪化すると思う。 (30代女性、健診・人間ドック)
- コロナ診療で外科手術は中止になりズタズタです。 (60代男性、一般外科)
- AIが導入されると収入が減少する科が出てくると考えている。 (70歳以上男性、婦人科)
- 収入は戻るだろう。必要な医療は変わらない、しかし。オンライン診療なども増えてきて形態はかわりつつある。感染症の専門病院と一般病院をわけられるようになればいいと思う。 (50代女性、消化器内科)
- これからはオンライン診療など、新しい形態がどんどん主流になってくると思うので、積極的に取り入れることが生き残る戦略だと思います (40代女性、皮膚科)
- 量子医学やAIの普及により、内科医は不要になるかも (60代女性、健診・人間ドック)
- 医学部定員数を増員した影響、AI診断の発展、オンライン診療の拡充から、あと10年以内に医師供給過剰になることは確実で、医師の収入減が予想されるため、危機感がある。 (40代男性、精神科)
- 保険診療の勤務医の先生方は忙殺されても収入に反映されておらず、開業の先生方はコロナのあおりをまともに受けてやはり減収となっているように思う。報酬の規定によるものであろうから致し方ない部分はあるものの気の毒に思う。自分はたまたまコロナ前に美容クリニックに常勤で入職したため給与は契約通り頂いており申し訳ない気持ちがある。 (50代女性、美容)
- いわゆるフリーのアルバイトは減ってくるように思います。ある程度継続的なバイト先の確保、あるいは常勤の確保が大切になると思っています。 (30代男性、放射線科)
- 常勤よりバイトで繋いだ方が、1.5倍くらい稼げるので、常勤でいるのがバカらしいと感じることがある (40代女性、麻酔科)
- 医局派遣のアルバイト先から出勤停止命令がでた例をきいている、医局に属する若手はさらに減少すると思う (30代男性、皮膚科)
- 田舎は高収入だが、都会は下がっている (40代男性、整形外科)
収入は減っていく
副業で収入を安定させる必要性
税金負担・増税
コロナの影響
診療科・業務内容による差
AI・オンライン診療などの技術の普及
その他
【参考】回答者の属性
調査概要
調査内容 | 2020年の医師の収入状況に関するアンケート調査 |
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調査対象者 | 株式会社メディウェルに登録している医師会員 |
調査時期 | 2020年12月9日~2020年12月25日 |
有効回答数 | 1,869件 |
調査公開日 | 2021年1月14日 |
年齢
性別
診療科
地域
<注>
[1] 1年未満が多い背景としては、調査対象としているメディウェルの医師会員が転職支援サービスの利用時に会員登録しているケースが多いことが挙げられる。